オペラ歌手!舞台でのキスシーンは本当?演技についての裏話を紹介!

みなさん、こんにちは。

日本では若手女優が出演するドラマにキスシーンがあったりすると、マスコミで取り上げられたりと、けっこうな盛り上がりを見せる事が多いようですね。欧米では人前でキスをするのは割と普通の事ですが、日本ではそうではありませんから、キスシーン一つで盛り上がるのもある意味理解できます。

映画やドラマには男女の恋愛を描いたものが数多くありますから、当然ながら愛情表現の手段としてキスシーンも多く登場しますね。

ではオペラではどうなんでしょうか?オペラ歌手も役者と同じように、本当にキスしているのでしょうか?それとも実際にはしていないけれど、しているように見せているだけ?

今日はキスをテーマに、オペラの裏話をしていきたいと思います。

オペラでは本当に歌手もキスしているのか?

オペラでは本当に歌手達はキスしているのでしょうか?まずはこの疑問からお答えしましょう。答えはイエスです。

これまでにいろいろなオペラに出演してきましたが、キスシーンがあったらオペラ歌手は本当にキスしなければなりません。私もこれまでたくさんのオペラに出てきましたが、随分沢山そうした場面を経験する事となりました。

ヨーロッパ人というのは私たち日本人ほどキスに抵抗がありませんから、キスシーンがあれば特に躊躇せずにキスします。むしろキスシーンなのに本当にキスしないで、そうしているように見せる演技をする方が不自然な感じがするぐらいです。

実際にオペラにはどのぐらいキスシーンが登場するのか?

実際にオペラではどのぐらいキスシーンが登場するかというのは中々興味深いテーマですね。実際の所、台本(楽譜)にキスシーンがはっきりと描かれていることは、そこまで多くはないですが、決して少なくもないといったところでしょうか。

私はこれまでに30以上の役柄を舞台上で演じてきましたが、その中で、キスをする描写が直接出てきたものをいくつか挙げてみましょう。

ヨハン・シュトラウス作曲「こうもり」より

まずはヨハン・シュトラウスの「こうもり」ですね。オルロフスキーのパーティーで「みなさん、兄弟、そして姉妹になりましょう!」と言って歌うシーンがあります。ドイツ語の2人称には敬称としてつかわれるSieとより親しい間柄で使われるDuがある事をご存じの方も多いと思いますが、昔は互いの呼び方がSieからDuになるときにキスをしてワインを飲みかわすという風習がありました。

ドクター・ファルケはそのパーティーで「これでみんな兄弟、姉妹になりましょう!さあ、まずはキス!そしてDuと呼び合いましょう!」と歌うのです。このファルケの言葉と当時の風習を尊重するなら、当然パーティーにいる人たちはみんなキスするのが妥当な演出という事になります。

こちらの映像はロンドンのロイヤルオペラハウスでのこうもりの演出になりますが、ベンジャミン・ラクソンが演じるファルケが先ほど説明した場面を歌っています。曲の真ん中頃にファルケが“erst ein Kuss,dann ein Du(まずはキス!それからDu)”というセリフがありますが、歌手たちはみんなキスしていますね。

ブリテン作曲「ルクレツィアの凌辱」より

私が2011年にハンブルクで演じたブリテン作曲「ルクレツィアの凌辱“The Rape of Lucretia”」というオペラの中ではっきりとしたキスシーンが描かれていました。このオペラはその題名の通り、“レイプ”が重要なテーマとなっています。

王子タルクイニアスは、思いを寄せるルクレツィア(コラティナスの妻)の寝込みを襲いに行きます。若き王子は、自分の想いにルクレツィアが答えてくれるという淡い期待を抱いているのですが、その思いを激しく拒絶されて傷ついた彼は結局ルクレツィアを力まかせにレイプしてしまうのです。

寝ているルクレツィアの枕元に立ったタルクイニアス王子は、アリアを歌います。そしてその最後に“To wake Lucretia with a kiss would put Tarquinius asleep awhile.(キスでルクレツィアを目覚めさせることができれば、それはタルクイニアスをしばしの眠りの世界へと誘うだろう。)というセリフが出てきます。

そう言ってタルクイニアスは眠っているルクレツィアにキスするのです。するとフィーメールコーラス(オペラのナレーション役)がこのように歌います。

“”Her lips receive Tarquinius she dreaming of Collatinus. And desiring him draws down Tarquinius
and wakes to kiss again and…
 (彼女はタルクイニアスの唇を受け入れた。彼女はコラティナスを夢見ている。再びキスをしようといてタルクニアスを引き寄せるが・・)

タルクイニアスのキスが夫コラティナスからのものだと勘違いしたルクレツイァはそれに答えようとしてキスを返します。

このようにはっきりと歌詞に出てきた場面というのは、演出でもだいたいその通りになります。歌っている内容と演じている内容が違ったらお客さんは混乱しますからね(残念なことに現代の演出では歌詞を無視した演出も多いですが・・。)

タルクイニアスがキスをしてからルクレツィアに拒絶される場面、その後二人の争いからレイプに至るまでの音楽的な盛り上がりは、このオペラの聴き所の一つですので、ぜひ一度ご鑑賞ください!

今私が思いつく限りでは実際に歌詞の中に直接キスをするという描写がでてきたのはこのぐらいですね。私がバリトンだったというのもあるかもしれませんが、案外少ないですね。

ただキスシーン自体が少ないというわけではありません。オペラやオペレッタには愛の2重唱など、恋愛に関する場面がとにかく沢山出てきます。そういう場面では特に歌詞にキスという言葉が登場しなくても沢山のキスシーンが見られます。

ほとんどのキスシーンは演出家による演出

これらのキスシーンはオペラの台本やセリフに直接書いてあるわけではありませんから、すべてが演出家による演出になります

ヨーロッパの人たちにとってはとにかくキスは重要です。キスというのは愛情表現の一つですからね。これは男女間の愛を表現するだけでなく、親子間、友人間の愛情表現としても頻繁に見られます。私はサッカーが好きで良く見ていますが、監督が選手のおでこにキスをする場面なんかも時々見られますね。

なので、彼らにとってはオペラに出てくる恋する二人がキスしなかったら、それこそ不自然に感じるわけです。なので恋愛に関する場面では、仮にセリフに書いていなかったとしても、演出としてほぼ例外なくキスが登場します。

あれは私がドイツに来たばかりの頃の話になりますが、私達夫婦は最初の一年間ドイツ人夫婦の家に居候していました。私達日本人には人前でキスをするという習慣がありませんが、どうやらそれがドイツ人夫婦にはよほど不自然だったのでしょう。“どうしてキスしないんだ?ここはドイツなんだから人前でキスをしても平気だぞ。”と言われた事があります。

若い夫婦が人前でキスをしないというのはとにかく不自然に感じるみたいです。

話を戻しましょう。とにかくヨーロッパ人にとってはキスはなくてなならない表現です。なので、オペラで恋人同士を演じていると、稽古中に演出家から頻繁に“Kuss!!(そこでキス!)”という指示が出される事になります。

私にとってその場面が訪れたのは、意外と早く自分にとって2つ目となるオペラでのことでした。正確に言えばオペラではなく、べナツキ―作曲の「白馬亭にて」というオペレッタでしたが、私はその中でドクター・ズィードラーという役を演じました。このオペレッタの中でズィードラーはオティーリエという娘に恋をするというストーリーです。

ちょっとその時の様子を振り返ってみましょう。

最初のキスシーン

私がこの「白馬亭にて」を演奏したのは、ブレーメン芸術大学在学中の事でした。ドイツに来てからちょうど3年ぐらいたったばかりの頃です。ドイツの生活に大分慣れてきた頃でもあり、大学を通して多くの人と知り合った頃でもあります。

台本には、直接キスを連想させるようなセリフは一つもありませんでした。しかしオティーリエとの愛の2重唱が二つもあるなど、ほぼ最初から最後までカップルの役をする事になりますから、もしかしたらキスシーンがあるかもしれないなあと予感していました。

演出家との稽古がはじまりましたが、正直に言うと、「キスしろ」と言われたらどうしよう、稽古の度に少しばかりドキドキしましたね。

いきなりそう言われてもどう振る舞ったら良いのか勝手が分かりませんでしたので・・。

まあ公演でキスをするというのは分かります。でも練習ではどう振る舞ったら良いのかが良くわからないわけです・・・。演出家の指示だからと言って、相手役に練習でキスしても良いもでしょうか?しかもその箇所を練習するたびに毎回キスしなければならない・・?相手に断った上でやるべき・・?やっぱり私は日本人ですからね。まだ何も言われていないのに、相手にいろいろ気を使ってしまうわけです。

そしてその日はとうとうやって来ました。たぶん2重唱の前のセリフの場面だったと思います。そのセリフの場面を練習している途中で演出家が、“Kuss!(キス!)”と叫んだのです。

私は、“いや、ただキスといっても、いろいろやり方とかがあるでしょう・・?“と内心思いましたが、思ったことをすかさず口に出すのがドイツ人です、相手役の子がすぐに“Wie?(どうやって)”と聴き返していました。

そして演出家は、オティーリエがズィードラーにキスをするようにと指示を出しました。より積極的な女性を演出したいとの事でした。少々肩透かしを食らった感もありましたが、私は相手のキスを受けるだけで良くなったので精神的にはかなり楽なものでした。

練習中も毎回キスするのか?という最初の疑問に対する答えですが、特にキスをする事に問題がない限りは、練習でもするのがドイツでは割と一般的だと思います。たぶん、やらない方が、相手を嫌がっているみたいで微妙な空気になってしまい練習しづらくなってしまうだろうと思います。

まあその辺は相手にもよるかもしれませんが、このような場面があったら、とりあえず演出家の言う通りにやってみて、その演技をする事に抵抗があれば自己申告というのが最も練習をスムーズに進めやすいですね。

おわりに

キスシーンもそうですが、オペラではとにかく異性との接触がかなり多いですね。日本人である私にとっては、最初の頃は、その距離感を掴むのは決して簡単ではなかったです。どうしても相手に気を使ってしまいますからね。

しかしそのような態度でオペラの稽古に臨むことは決して良い事ではありません。自分では気を使っていると思っていても、相手や演出家には単なるシャイで内気な性格と思われてしまう可能性の方が高いからです。

でもキスシーンは特に問題ないんですが、これが暴力シーンとかになるとまた難しいんですよね(オペラには暴力シーンも結構出てきます)。同僚を相手にどこまでやったら良いのかその力加減を考えなければなりませんから・・。でもそれはまた別な機会に話しましょう。

今回は、オペラ歌手は舞台で本当にキスをしているの、という話でした。おしまい。

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