オペラ歌手!太った方が良い声がでるのは本当か?歌手と体型の話!【オペラ・声楽】

みなさん、こんにちは。

皆さんはこれまでに太った方が良い声がでるとか、太った方が呼吸が安定するとか、とにかくオペラ歌手になるには太った方が良いんだ、というようなことを耳にしたことはありますか?

私はこれまで自分の先生から直接“もう少し太った方が良い”と言われたことはありませんが、間接的に太った方が良い声がでる、みたいなことは沢山聞いてきました。

でも本当の所はどうなんでしょうね?

今回はオペラ歌手と体型の話です。

Q:太った方が良い声がでるというのは本当か?

まずはこれまで私が間接的に聞いてきた、オペラ歌手と太る事に関するフレーズを紹介しましょう。

  • 太った方が良い声が出る。
  • 太った方が支えが安定する。
  • オペラ歌手は太るのが当たり前?
  • 太った方が舞台映えがする?!!
  • 痩せているとひょろひょろの声しかでない。
  • 痩せていると見栄えがしない。

私が日本の音楽大学に在学中は、だいたいこのような話を良く聞きました。さすがになんの根拠もなしに太った方が良い声がでると信じる風潮はありませんでしたが、痩せると声も痩せて良い声がでないとか、太ったほうが呼吸の支えが安定するという風潮はあったように思います。

それからどういうわけか、痩せているよりは多少太っていた方が舞台映えがすると信じている人は多かったように思います。

私もそれらについては友人たちと議論した事を覚えています。

では本当に太った方が良い声はでるのでしょうか?答えを見ていきましょう。

A:太った方が良い声がでると言う事はない。

早速答えを言いますが、太ったからといって良い声がでるという事はまずありません

それは良い声がでるメカニズムを知れば分かってきます。

まず良い声を出すという事ですが、これは声帯を理想的に振動させるということです。声帯に無理な力を加えずに、伸縮させなければなりません。

そのためには、声帯が伸縮できるように喉を下げる必要があります。そしてそこに息を通す必要があります。喉を下げるためには首の周りの筋肉を引っ張る必要がありますし、息を支えるために、腹横筋や横隔膜の筋肉が必要になってきます。

これらの筋肉を鍛える事で、喉のスペースや呼吸が安定し、声帯を理想的に重ね合わせる事ができるようになるというわけです。

良い声を出すために私たちにできることは、直接関係する筋肉をトレーニングで鍛える事です。それ以外の事は何をしてもあくまで間接的なものです。

太るといった間接的なものが声に影響を与える可能性が100%ないとは言えませんが、私は太る事と歌うのに必要な筋肉が育つことは直接関係はないと考えています。

なので必要な筋肉が育たない限り、太っても良い声が出ることはないというわけです!!

ただ、これを本当に検証するなら、まったく練習しない人を100人ぐらい集めて、20㎏程太ってもらって前後で声に変化があったか検証するしかありません。しかしそんな検証をする事はよほどお金がない限り無理ですし、学術的な研究価値もあまりないので、これはほぼ不可能と言って良いでしょう。なので、ここに書いていることはあくまで私の経験に基づいた個人的な考えです。

太ると声に悪影響の方が大きい事も

では太るという事はどういう事でしょうか?太るというのは基本的に余分な脂肪が付くという事ですね。

脂肪が付くのはなにもお腹や、顔だけではありません。実は太ると内臓にも脂肪が付いてしまいます。そしてその結果気道壁にも脂肪が付いてしまうのです。(肥満の人が喘息になりやすいのは、肺が圧迫されるためではなかった:研究結果)

脂肪が気道壁についた事によって、肺の空気の出入りが制限されて、ひどい場合は喘息になってしまう可能性も高いとされていますね。

また腹部や胸部に脂肪がたまることで、肺が十分に広がる事ができずに、肺活量が低下してしまうという報告もあります。(肥満が進むと、肺機能が低下するのが速い)。

お相撲さんなどで、なんとなく息苦しそうな話し方をしている人を良く見かけますが、それは肺が圧迫されていたり気道壁に脂肪が付いたことで気道が狭くなっているからではないかと思われます。

呼吸はオペラ歌手にとっては最も重要な要素の一つです。喘息になってしまうと十分な呼吸の支えを得るのが難しくなりますし、肺が広がらないようでも呼吸に悪影響を与えてしまいます。

まあ一言で太るといっても、程度には差があるでしょうが、とにかく太りすぎは、声に良い影響どころか、悪い影響を及ぼす可能性が高くなりますから注意しましょう!

ではどうして太ると声が良くなると言われてきたのか?

では、どうして太ると声が良くなると言われてきたのでしょうか?私なりにその原因を考えてみました。

オペラ歌手が太っているから、一般的に良い声のイメージ?

まず考えられるのが、有名なオペラ歌手に太っている人が多く存在した事ではないかと思います。パヴァロッティ、カバリエ、ジェシー・ノーマン、ヨハン・ボータ等の歌手を姿を思い浮かべてみてください。それからタレント事務所が、太ったタレント歌手をオペラ歌手として頻繁にテレビに出演させていた事も関係あるかもしれません。

そのため、太っている=良い声というイメージが一般社会に定着してしまった可能性はありますね。

ただ一般社会にこうしたイメージが定着しただけなら、分るのですが、最初の方でも書いたように声楽界においても、このようなイメージが定着しているのはちょっと不思議ですよね。

もう少しその辺を考えてみましょう。

オペラ歌手は太りやすい?

最近では太った歌手と言うのはそれほど多くはないんですが、オペラ歌手が太りやすい環境にいることは事実です。

オペラ歌手は非常にストイックな職業です。公演前は風邪などに感染しないように人込みは避けなければなりません。なのでストレス発散に外に遊びに行く事もほとんどありません。外出して近くで咳をしている人がいれば、かえってストレスを感じてしまうからです。

お酒もそれほど沢山飲めませんし、友達と長時間おしゃべりをするのは声に悪いし・・とにかく我慢しなければならない事が沢山あるのです。

そうした中で唯一のご褒美が公演後の食事です。公演が終わるのはただでさえ10時から11時と遅いですが、終わった後でお腹がすいていますので、ついついスぺゲッティなどの炭水化物を食べてしまうのです。そしてお腹がいっぱいになったところでそのままベッドに入るというわけですね・・。

こうした生活を繰り返すと、よほど注意していないと太ってしまいます(若いうちは平気ですが・・。)。

太った方が良い声が出る説は声楽家にとっては都合が良かった?

私は、太った方が良い声が出るという説が声楽の世界で広まった背景にはお手本とする大歌手が太っていた事もあると思いますが、なによりこうした説が声楽家によってある意味都合が良かったからではないかと思います。

舞台に立つ人であれば誰でもきれいな体型を維持したいと思っていると思いますが、オペラ歌手の生活スタイルでそれをやるのは結構難しいです。さらに年を重ねれば重ねるほど体型を維持するのは難しくなります。

しかし、太った方が良い声がでる、と信じていれば、このような煩わしい問題から解放されます。“ちょっとぐらい太っても、声に良いんだからこれで良いんだ!”、“わざわざ大変な思いをして食事を制限する必要なんかない。”という考えは本当に便利です。ある意味健康的なポジティブ思考?

太った方が舞台上で見栄えが良くなる、という考えも、それと同じですね。もちろん“太っている”と一言でいっても、かなりの幅がありますから、その人がどのぐらいをイメージしているのかは分かりません。

ただ太った方が見栄えが良いと思っていれば、これはちょっと太ってきたぐらいの歌手にとっては非常に都合が良いです。こう考える事で、唯一のご褒美である公演後の深夜の食事を制限する必要がまったくなくなるのですから

まあ本当の所はわかりませんが、私は声楽の世界でこのような考えが広まったのはこのようなことからではないかと考えています。

太ると仕事を貰うのは難しくなる!

では、最後に現実についても話をしておきたいと思います。私個人的には、歌さえうまければ、見た目はそれほど気にしません。見た目が良くて歌が下手な人と、少し太っていても歌がうまい人だったら、基本的には歌がうまい方を採用すると思います。

しかし現実の社会ではそんな事は言っていられません。劇場のオーディションでキャスティングする側すべての人が、歌の良し悪しだけで判断するわけではないためです。

実際に劇場のインテンダント(※いわゆる社長)やディレクターなどは、音楽家ではなくて、演出家出身や演劇出身の人が多いです(中には経営出身の人もいます。)。演出家はやはり演出家の視点から、役者は役者の視点から、キャスティングします。そうなるとどうしても見た目が重視される傾向になります。

見た目というのは、歌の良し悪しと比べてはっきりしているので、キャスティングで落とす材料としてはもってこいです。キャスティングするのは一役多くて二人ですから、聴く側はとにかく落とす材料を探しています。

クラシック音楽市場が、ビジュアル重視になったのは今に始まった事ではありません。私はこうした流れが良いとは思いませんが、舞台に立つチャンスが欲しければ、相手に落とす材料を与えない事も大事ですね。

おわりに

今回はオペラ歌手と体型に関する話でした。

ただ“太っている”と言ってもこれらはすべて程度の問題です。痩せすぎの人だったら、太った方が健康的に良い場合もあるでしょうし、日本人的に太っていると思っていも、欧米では標準体型に入るという事もあるでしょう。

繰り返しになりますが、私は太った方が良い声が出る事はないと思っています。大事なのは歌うために必要な筋肉をトレーニングする事で鍛えていく事です

そして何よりも大事なのが、その人にとって健康で元気でいられる体型を維持するという事ですね。歌はその人の健康状態に大きく左右されます!心も体も健康でないと歌う事が出来ません!

歌い手は体型の事を考えるときに、どうしたら健康でいられるかを考えれば自ずと答えが見つかるのではないでしょうか!


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