みなさん、こんにちは。
しばらく発声の話をしていませんでしたから、今回は発声の話をしようと思います。顎のお話です。
世の中にはオペラや声楽に限らず、ヴォイストレーニングの学校というのが随分沢山ありますが、どうやらそこでは下あごは引いて歌うべきだとか、逆に上げて歌うべきだとか、いろいろな意見があるようですね。
私自身は中学校の合唱の授業で、下あごはしっかり引いて歌うようにと教わった記憶があります。最初に習った声楽のレッスンでも、下顎はしっかり下げるように教わりました。
でもこれって本当に正しいのでしょうか?早速その話を進めていきましょう!
もくじ
下あごはどうするのが正しいのか?
歌う時に下あごは引くべきか、むしろ上げるべきか?皆さんはどちらだと思いますか?
いきなり答えを言いましょう。下あごは決して引いてはいけません。下あごの先が少しだけ上を向いているのが理想です。決して下あごの先が天井を向いているわけではありませんので、誤解しないでくださいね!
下あごの先が自分の足元ではなくて、観客席の方を向いているとイメージしてください。
でもあごが上を向いているって、なんか苦しそうですよね。本当にそれで正しいのでしょうか?
心配しないでください!それで正しいんです。今からその理由を見ていきましょう!
下あごをあげる理由!!
スペース確保が目的
下あごをあげる理由は非常にシンプルです。下あごを少し上げる事で喉の奥にさらなるスペースが得られるからです。良いオペラ歌手になるには、喉の奥の響くスペースを最大限まで利用しなければなりません。そのスペースを最大限まで利用する事ができて、初めてボリュームがあり、丸く豊かな響きの声が可能となるのです。
このスペースというのは最初の内は非常に不安定で、すぐに小さくなってしまいます。しかし訓練する事で、そのスペースを常に一定に保つことができるようになります。声楽を学ぶ過程では、声は徐々に深く、丸みを帯びたものへと成長していきますが、それには少しずつスペースが増えていくことが関係しているというわけです!
そこで重要となるのがあごの位置です。下あごを少しだけ上に上げ、さらに、その時に喉を下げる事でスペースができるのです。
喉の下げ方はこちらの記事でも説明していますのでご覧ください!!
下あごを上げた時に喉が上がっているとただ苦しいだけになってしまうので、注意が必要ですね。前提はあくまで喉が下がっている事となります。喉が下がっており、さらに下あごがわずかに上がっている事で、よりスペースを有効に活用する事ができるというわけです。
イメージとしては犬や狼の遠吠えです。遠吠えの目的は遠くまで声が聞こえるようにする事。その姿はまるで一本のパイプが口から体に向かって突き刺さったかのようでもありますが、動物は本能的に最も遠くまで声を響かせる方法をやっているというわけですね。
舌が邪魔をするリスクも減らせる!
下あごを上げる事のメリットはそれだけではありません。実際に下あごを上げると、舌根を無意識に押し下げてしまうリスクを減らすことが出来ます。
これも喉の下げ方の記事で説明しましたが、舌根が下がってしまうと、喉の奥のスペースを有効活用することが出来なくなります。舌が邪魔をしてしまうためです。
しかし下あごを少し上げ気味にする事で、舌根を無理やり押し下げてしまうリスクを減らすことが出来ます。
これは人口呼吸の時の気道確保のイメージに似ていますね。人間は意識が低下すると舌根が自然に降りてきて、気道を塞いでしまうとされていますが、下あごを上に上げる事でそれを防ぐことができるとされています。
歌う時に下あごをあげる理由もここにあります。上の右側の図のように、下あごをあげる事で舌根が下がる、もしくは力で舌根を押し下げるリスクを減らし、スペース(気道)を確保する事が出来るというわけです。
本当に歌手は下あごをあげて歌っているのか見てみよう!
ではオペラ歌手は本当に下あごをあげて歌っているのか見ていきましょう。
イタリア人テノールのティート・スキーパが歌う映像になります。彼が歌っているのはフロトウ作曲の「マルタ」にでてくるアリアになりますが、彼の顎の角度は非常に理想的です。
下あごが常に上を向いているのが分かりますね。スキーパは非常に軽く細い声のテノールですが、このようにして自分の体の中にあるスペースを最大限に利用する事で、ハリのある美しい声を実現しています。
こちらもイタリア人のテノール、フランコ・ボニソッリになります。彼も下あごが常にやや上を向いています。上を向いていると言うと分かりづらい人は、下あごの先端が足元ではなくて観客席の方を向いているとイメージしてみてください。
お次はスウェーデンの出身の大ソプラノ、ビルギット・ニルソンの映像になります。ビルギット・ニルソンも喉がしっかりと下がっており、顎が若干上を向いています。何年もこういう歌い方をしていると、年齢とともに多少肉付きが良くなった事は別にしても、首と顎の境目が無くなってきます。ドラマチック・ソプラノとして大活躍したニルソンのボリュームのある声はこのような歌い方によって可能となっているのです。
最後はイタリア人のテノール、マリオ・デル・モナコの映像を見てみましょう。マリオ・デル・モナコは音が高くなればなるほど、下あごがどんどん上へと上がっていきます。これは見ていて本当に面白いですね。特にアリアの最後の高音ではそれが非常に分かりやすいです。ほとんど天井を見ながら歌っているみたいですが、これは非常に賢く理にかなった歌い方なのです。彼はそのようにしてスペースを有効活用しています。
おわりに
さて、今回は手短に、歌う時の下あごについての話をしてみました。これは歌う時には非常に重要な要素となりますが、意図してこれに取り組んでいる歌手は最近ではそれほど多くはないかもしれないですね。
しつこいようですが、喉がまず十分に下がっていないと、どんなに顎を上に向けてもこれらの大歌手のような顎と首のラインにはなりません。私も昔の大歌手の写真と自分を比べながら、どうしてこうも違うのかと随分悩んだものです。
喉を下げて、さらに下あごを上げて歌う事で、さらなるスペースを見つける事が可能となります。こうして歌う訓練をすることで、声が豊かな響きを持ったものへと成長していくというわけです。
それではまた!!