みなさん、こんにちは。
みなさんはオペラを鑑賞していて、他の人の振る舞いが気になったり、嫌な思いをした事がありますか?席にもよりますが、オペラのチケットは非常に高額ですから、できれば楽しく誰にも邪魔されずに観劇したいものですね。私は日本で学生をやっている時にスカラ座だったかウィーン国立歌劇場の引っ越し公演に2万5000円を払ったのが最高記録ですが、それでも後ろの方の席だったことを覚えています。いやー、チケットは本当に高いです。
私はこれまで随分沢山のオペラを観に行きました。パルケットと呼ばれる最も良く見える席でオペラを観劇した事もたくさんあれば(幸運なことに同僚から招待券を良くもらいました。)、天井桟敷ともいわれる、最上階の後ろの方で鑑賞したことも沢山あります。
まあ今となっては、オペラに行くときは歌手の歌を聴ければ十分なので、自分でチケットを買う時は立ち見の安い席か、最上階の後ろの方の席を買います。
実は最近なにげなくネットサーフィンをしていたら、オペラのマナーという話に出会いました。日本人にとっては普段からマナーというものは非常に大切ですが、オペラ鑑賞に行く人たちもやっぱりマナーを気にするみたいですね。
そうしたマナーの中には携帯電話の電源を切るとか、演奏中に話をしないとか、まあ最だと思われるものもありましたが、中にはおやっ?と思うものもありました。今回は私がおやっ?と思ったオペラのマナー、それからオペラを楽しむためのコツみたいなものに関する私なりの考えを(経験を踏まえた上で)話してみたいと思います。
もくじ
①背中は背もたれにくっつけて鑑賞!前のめりにならないように注意する?
オペラというのは誰でも良く見たいものですが、残念ながらすべての席から良く見えるわけではありません。基本的には舞台から離れれば離れるほど見えなくなりますし、端の方の席からは舞台が半分も見えない場合もあります。
そのためよく見えるようにと体を少し前に倒そうとする人が出てくるわけですが、日本ではどうやらこれがマナー違反とされているようですね。
実際に新国立劇場のホームページでも“前の人が身を乗り出すと、その後ろの人たちの視界がさえぎられ、とても見にくくなってしまいます。できる限り背もたれに背をつけて鑑賞してください。”と書かれています。
でもこれってどうなんでしょう?
もちろん後ろの人を気遣って行動できるに越したことはありませんが、劇場側が観客にこのような行動をマナーを押し付ける事はどうなんでしょうか?
ちょっと新国立劇場の客席の作りは忘れてしまいましたが、外国のオペラ劇場の多くは、各階の一番前の席に腕を乗せる台というか手すりのようなものが作られています。
この台は布で覆われており(ちょっとクッションが入っている)、いかにも、“ここにあなたの腕を乗せてリラックスして鑑賞して下さい!“と言っているかのようです。なので、ここに腕を乗せて鑑賞する事はヨーロッパでは割と普通です。腕を台に乗せるともちろん少し前のめりになった状態になります。
オペラはとにかく長いですから、ずっと同じ姿勢で鑑賞していると疲れてしまいます。なので、私も最前列で鑑賞する時は、その台に腕を乗せたり、その姿勢に疲れてきたら背もたれに寄りかかったりして、オペラを鑑賞しています。最前列でなくても、時々前かがみになったり、背もたれに寄りかかったりして鑑賞するのはある意味自然だと思っています。とにかくずっと同じ姿勢を3時間キープするのは疲れますし体に良くない・・。
どうやら私のこうした行動は日本ではマナー違反という事になってしまいそうですね・・・。
でもオペラハウスというのは、残念ながらどの席からも良く見えるようにはできていません。たいてい後ろに行けば行くほど見えなくなるものなのです。
私はまずこの事実を受け入れる事がオペラを快く鑑賞するうえで大事だと考えています。
つまり後ろの席が前の席よりも良く見えないのはしょうがないのです。ただその分チケット料金も安くなっています。
この事実が受け入れられないと、前の人の行動がいちいち癪に障るようになります。自分が見る権利を邪魔されていると感じてしまうわけですね。
おそらくそういう声が大きくなって、日本ではこのようなマナーが生まれたのだと思います。でも個人的にはこれはちょっと厳しすぎると思いますね・・。
シートを倒すと座席が狭くなるので、倒すなという飛行機や電車のリクライニング問題と似たような感じがします。
諦めが肝心!間違っても文句を言うのはやめよう!
私だったら、自分が後ろの方の席を買ったら、前の人が多少前かがみで鑑賞していようが、諦めます。前の人の方が先にチケットを買ったんだからこれはしょうがないです。それにずっと同じ姿勢で見るのは疲れますから、“私が見えないからじっと背もたれにへばりついてろ!“なんて言えません・・・。
良い席で鑑賞したければ、自分が良く見える高い席を買うか、安い席の中でもできるだけ良い場所を確保するように早めに予約するしかありません。実際多くの人が良い席のチケットを取るために少なからずそういう努力をしていると思います。なので、前の方の席が取れなかった時点で、ある程度諦めるのが肝心だと思います。
そうしたほうがいちいち他人の行動にイライラせずに音楽の鑑賞に集中することができると思います。
それができずに、自分にも前の席の人と同等の権利があると拘わってしまうと、本当に前の人の行動が癪に障ります。前の人が頭を動かしただけでもイライラしてしまうわけです。
でも間違っても、前の人にそれぐらいで文句を言うのはやめましょう。後ろの席になったのは買うのが遅かったんだから、見えないのはある意味しょうがないです。文句を言ったことで、鑑賞している人、そしてその周囲の人の気分を害する事間違いなしですし、自分も後味の悪い思いをする事間違いなしです。(もちろん前の人が立ち上がったり叫んだりしていれば別ですが・・。)
私自身はマナーというのは大事だと思っています。自分のできる範囲で後ろの人に気遣いができればそれは人間として素晴らしいと思います。ですが、それを他人にも期待するのは精神上良くないと思っています。他人がマナーを守らない事にいちいち腹を立てていては、本当にくたびれますよ。
そんな他人の行動をいちいち気にしていたらせっかくのオペラ鑑賞も台無しです。
もし仮に前の人が前かがみになって見づらくなったとしても、諦めて、音楽と歌手に集中したほうがよっぽど良い時間が過ごせると思います。見えないぐらいでは音楽の魅力は決して損なわれません!
②曲が終わる前に拍手をしない?
では次に行きましょう!
実は私が最も驚いたのが、拍手のタイミングがマナーとして捉えられているという現実です。拍手というのは、その人が感動した気持ちを表すものですから、私はお客さんの自由だと思っていました。しかしこれもマナー化というかルール化されているみたいですね。
例えば
- 曲間(楽章間)で拍手しない。
- 曲が終わるまでは拍手しない。
- 曲が終わっても余韻が消えるまでは拍手をしない
などがルールとなっているようですね。
もう一度新国立劇場のホームページ(オペラ鑑賞のマナー)から拍手に関する部分を引用してみましょう。
そこでは「拍手のタイミングは」と題して、“オーケストラ・コンサートでは全曲が終わるまで拍手をしません。時々、曲が終わっていないのに拍手が起こってしまう事もあるようですが、それはこうしたルールに詳しくない人が多く訪れる有名なオーケストラの来日公演で良く起こるようです。”と記されています。
まあ確かに交響曲や協奏曲で楽章の間に拍手をするという習慣は日本でもヨーロッパでもありません。しかしそれはあくまで習慣であって、決してルールではありません。そもそもそんなルールなんかありませんよ。なのに、“ルールに詳しくない人が多く訪れる有名なオーケストラの来日公演で“という表現は、ちょっとクラシックファンの初心者を小馬鹿にしたような表現だと思いませんか?これにはちょっと驚きました。
音楽を聴いて感動したのであれば、別に楽章の途中で拍手したって良いではありませんか。演奏家の立場から意見を言わせてもらえば、別に途中で拍手が起きてもそんなに気にしません。
オペラの場合だったら、アリアが歌い終わってオーケストラの後奏が終わらないうちに拍手がきたら、それは嬉しいものです。
私がドイツに来たばかりの頃、シュトゥットガルト音楽祭でモーツァルトのオーケストラの演奏会がありました。
オーケストラはかつてチェリビダッケやカルロス・クライバーが指揮をした南西ドイツ放送交響楽団です。その時の指揮はサー・ロジャー・ノリントンでしたが、そのコンサートで解説を務めたのがアメリカのピアニスト、ロバート・レヴィンでした。
そのコンサートはお昼時に行われたもので、ロバート・レヴィンが曲の解説をした後、割とアットホームな雰囲気な中でコンサートが始まりました。正直、その時の演目が交響曲だったのか、レヴィン自身がピアノを弾いたピアノ協奏曲だったのか忘れてしまいましたが、一楽章が終わったら、観客からパラパラと拍手が起こったのです。
ドイツ人の観客の中には、その拍手を聴いて“やれやれ”という具合で首を横に振る人たちもいましたが、その時レヴィンはお客さんの方に向かって、勇気をもって拍手をするようにと、拍手を歓迎するような動作をしたのです。
演奏も演目も忘れてしまいましたが、その事だけははっきり覚えています。
私の考えでは、拍手は自分の演奏に対する気持ちを表すものですから、マナーでもルールでもなければ義務でもありません。
あんまり難しく考えなくて良いと思いますよ。
拍手のタイミングは演奏家をよく見ていればわかる。
とは言っても、拍手のタイミングってやっぱり気になりますよね。やっぱり演奏家と観客との間にできあがった空気をぶち壊すような行動は自分ではとりたくないものです。
オペラやコンサートの魅力は演奏家と観客の間にできたある種の一体感です。これはやはりライブでしか体験できません。
オペラやコンサートを見に行ってこの空気の一体感のようなものを感じれられたら、それは何事にも代えがたい体験になります。
たいていの演奏家は常に観客の反応を意識しながら歌っています。観客に音楽の素晴らしさを伝えるべく演奏するわけです。
オペラに限らず歌手の場合は、歌詞が存在しますから、お客さんとのコミュニケーションは特に濃密です。ちょっと冗談めいた歌詞のところでお客さんのくすっとした笑いがあったりすると嬉しいものですし、逆にシリアスな内容ではお互いの緊張感が高まってくるのを感じます。
演奏を終わってからの拍手というのも、その延長みたいなものです。拍手をする側は演奏家をよく見ていれば拍手するタイミングは自然と分かります。
演奏家がその緊張を解いていなければ、音は出ていなくてもまだ音楽は終わっていません。むやみやたらにブラーボ―などと叫ばずにその緊張の余韻というものをぜひ感じ取ってみてください。演奏家が緊張を解くタイミングで自然と拍手が起こるはずです。オーケストラの場合は、指揮者が腕を下ろすタイミングがそれにあたります。指揮者が指揮棒を下すまでは、演奏している楽団員も構えをキープしたままです。
静かな感じの曲の時は、なかなか指揮棒を下ろしませんが、それはまだ音楽が終わっていないからです。そういう時は拍手するのを指揮者が緊張を解くまで待てばよいです。逆に勢いのある曲だと、最後の音と同時に指揮棒を下ろしまたりしますね。そういう時は最後の音が終わった瞬間に大きな拍手が起こります。
ルールやマナーにこだわって拍手の事なんか考えているととにかく堅苦しくて仕方ありませんし、他の人の拍手にまでいちいち腹を立てたりすることにもなりかねません。あれこれ考えるよりも演奏者の演奏を終える時の仕草を感じながら、演奏家と一緒にその空間を作り上げようとしてみてはいかがでしょうか?
繰り返しになりますが、演奏家とその空間を共有したと体験できたら、それは素晴らしい経験になると思います。
おわりに
今回はオペラ鑑賞のマナーについて2点、私の考えを話してみました。マナーというのは大事ですが、マナー、マナーと言ってそれを他人に押し付けるようになってしまうと、とにかく息苦しい世の中になってしまいます。マナーというのは自分が守っていると、とにかく他人が守っていないのが気になって気になってしょうがない・・
でもこれではせっかく高いお金を払ってオペラを観に行ったのに、心が休まりませんし、楽しめません。それに単なる習慣に過ぎない拍手一つで、初めてコンサートに来た人を小馬鹿にするような世の中になっても困りものです。
他人にある程度の配慮はしつつも、それと同じ振る舞いを他人には期待しない。そうするといちいち腹も立ちませんし、こうした割り切りは快く鑑賞する上では私には結構役に立っています。
オペラ鑑賞だからといって、そんなに特別なマナーというのはありません。あんまり堅苦しく考えずに気軽に足を運んでもらいたいですね。