みなさん、こんにちは。
以前からこのブログではオペラの魅力を少しずつ紹介していきたいとは思っていましたが、ようやくその時がやって来ました!
これからはできれば定期的なペースで様々なオペラの魅力を紹介していきたいと思いますが、今回はヴェルディの最高傑作のひとつである「アイーダ」を取り上げてみたいと思います。
オペラの魅力はたくさんありますが、やはりその中でも音楽が大事ですね。私の解説では、単なるあらすじのまとめで終わらずに、その音楽の魅力をできるだけ紹介しようと思っています。
結果的に結構長くなってしまっていますが、ぜひとも「アイーダ」の魅力に触れてください!
音楽付きで見どころを紹介した詳しい解説動画もあります。予習にも最適な内容となっていますので、ぜひ合わせてご覧ください!
もくじ
「アイーダ」とは?
「アイーダ」は偉大なオペラ作曲家であるジュゼッペ・ヴェルディが作曲したオペラです。主人公である女性アイーダの名前がそのままタイトルになっています。世界中で最もポピュラーのオペラの一つでもあり、上演回数も非常に多いです。
ちなみにポピュラーなオペラである「アイーダAida」、「ボエームBoheme」、「カルメンCarmen」の3つをその頭文字をとってオペラABCと呼んだりもします!アイーダはまさにその最初に来るオペラというわけです。
アイーダはヴェルディのオペラの中でも後期の作品になります。具体的には最後から3番目に作曲されたオペラです。ヴェルディの作品は後期になるとオーケストラ伴奏が大きくなり、それに伴い歌手もよりドラマチックな声を要求されるようになってきます。なのでここは抑えておきたいポイント!!
ドラマチックな声というのはより重く太い声の事ですが、より大きな声と考えてもらっても間違いではありません。オーケストラの編成というのは昔と比べて現代に近くなればなるほど大きくなっているので、歌手にもそのオーケストラを突き抜けて聞こえるように、よりドラマチックな声(大きな声)が求められるというわけです。
ヴェルディの後期になって大きくなったのはオーケストラだけではありません。それに伴い、アイーダでは多くの合唱団員が民衆役や奴隷、神官役として登場し、それからバレエダンサーなども登場します。
アイーダを上演するにはこれらの出演者を乗せるだけの大舞台が必要なので、舞台が大きな劇場でないと上演できません。(日本には大きな劇場しかありませんが、ヨーロッパだと客席が500人以下の小さな歌劇場も沢山あります・・。)
つまりアイーダはオーケストラも大きく、歌手も重量級!さらに多くの出演者とそれに見合う舞台セットを必要とするド派手なオペラというわけです!こうした大規模なオペラの事をグランドオペラと言ったりしますが、とにかく非常に贅沢な作品なのです!(上演するには実際にかなりの金もかかります・・。)
なので、アイーダはまさにグランドオペラの醍醐味を味合うのにぴったりなオペラと言う事ができるでしょう。
それではまずはアイーダの簡単なあらすじから見ていきましょう!
アイーダの登場人物とあらすじ
「アイーダ」の登場人物と適した声種
- エジプト王 Il Re :シリアスバス/中役
- アムネリス Amneris (エジプト王の娘) :ドラマチックメゾソプラノ/大役
- アイーダ Aida (エチオピア人の奴隷):ドラマチックソプラノ/大役
- ラダメス Radames (エジプトの衛兵隊長):スピントテノール、ドラマチックテノール/大役
- ラムフィス Ramphis (祭司長):シリアスバス/中役
- アモナズロ Amonasro (エチオピアの王):トラマチックバリトン/中役
- 使者 Messagierra :テノール/小役
このオペラの主役はアイーダ、ラダメス、そしてアムネリスの3人です。このオペラの鍵となるのはこの3人の心理的なやり取りです。それを十分に表現するために、3人の歌手には非常にドラマチックな声が要求されます。この3人の歌手の力量はオペラにおいては非常に重要なポイントです。
物語の簡単なあらすじ!
- 祭司長のラムフィスから、エチオピア遠征の司令官が決まった事を聞いたラダメスは、自分が司令官に選ばれる事を夢見ながら、選ばれた暁には愛するアイーダのために戦い勝利する事を誓う!
- ラダメスを密かに愛するエジプト王の娘アムネリスは、ラダメスの心には自分以外の人がいるのではないか、そしてそれは実は自分に奴隷として使えるアイーダなのではないか、と嫉妬に燃える。
- ラダメスが遠征軍の司令官に選ばれ、一同勝利を祈願するが、そこに一人残されたアイーダは、愛するラダメスが勝利する事は自分の祖国であるエチオピア、そしてそれを率いる父の敗北を意味するために深く悩み悲しむ。
- アイーダにラダメスが遠征で死んだと嘘を伝えたアムネリスは、その反応からアイーダのラダメスへの気持ちを確信し、その恋を諦めるようにと迫る。
- エチオピア軍の捕虜を率いて凱旋したラダメスだが、その捕虜の中にアイーダの父親が混ざっている事を発見すると、勝利の褒美としてアイーダとその父を人質として残し、それ以外の捕虜を解放する事を要求し認められる。
- ラダメスと隠れて会うためにやってきたアイーダの下に、父親でエジプト王のアモナズロが現れ、ラダメスから軍の秘密を探り出すように要求する。
- 二人の愛を成就するためには二人でエジプトから逃亡するしかないと意見するアイーダに同意したラダメスは、軍の秘密である逃げ道を明かしてしてしまい、アイーダを逃がすことには成功するも一人捉えられる。
- アムネリスはラダメスに対して裁判で弁明する事を促すも、ラダメスはそれには応じず死を覚悟する。
- 裁判ではラダメスの国家反逆罪での死刑が決まり、生きたままお墓(地下牢)に入れられることになる。
- アイーダはラダメスが生き埋めとなるお墓に、先に忍び込んでおり、そこでラダメスと共に果てる。
あらすじというのは長いと読むのが面倒ですが、簡潔にまとめすぎても、肝心のストーリーが分かりにくいという事になってしまいます。詳しいあらすじを読みたい方は時間のある時にでも以下の詳しいバージョンをご覧ください!
物語において最も大切なのは終わり方ですね。「アイーダ」においては主人公であるラダメス、とアイーダが生き埋めとなって共に息絶えてしまいます。これがこの物語の結末です。
どうしてそのような結末になるのか順を追ってみていきましょう!
「アイーダ」は古代エジプトが舞台となっています。エジプトと敵国であるエチオピアの戦争がこの物語の背景となっており、主人公のアイーダはエチオピアの捕虜としてエジプトに捉われ、奴隷としてエジプト姫アムネリスに仕えています。実はアイーダはエチオピア王アモナズロの娘なのですが、その身分は隠しています!
舞台はエジプトの首都メンフィスにある王宮の広間です。物語は、祭司長であるランフィスが、エジプトの衛兵隊長であるラダメスに対して、「エチオピアとの戦争を率いる最高司令官が誰になるのか決まった」と告げるところから始まります。
ラダメスはその言葉を聞いて、「もし選ばれるのが自分であったのならば、愛するアイーダのために戦い勝利しよう」と一人夢に期待を膨らませながらアイーダに対する賛歌を歌います(ラダメスのアリア「清きアイーダ」)。
そこへ、密かにラダメスを愛するエジプトの姫アムネリスがやって来ます。非常に勘の鋭いアムネリスは、ラダメスの様子を見て、「誰か他に愛する人がいるのではないか・・」と嫉妬心に燃えながら、ラダメスに探りを入れます。この勘の鋭さは中々注目に値しますね。ラダメスも「ここでアイーダへの愛がばれてしまってはまずい」と必死に心の内を悟られまいとします。
するとこの二人のいるところに、うまい具合に奴隷のアイーダがやって来ます。アムネリスはラダメスの視線の動きから、「自分の恋敵がアイーダではないか」と疑いだします。この日のアムネリスの勘は鋭いです。まさに彼女の疑念は的中しているわけですが、ここでラダメス、アムネリス、ラダメスの恋の三角関係の出来上がりです!
アムネリスは嫉妬と怒りに燃える思いを、ラダメスは自分のアイーダへの愛がばれた場合への危惧、そしてアイーダは祖国エチオピアの現状と、敵国の兵隊を愛してしまった苦悩、とそれぞれその心境を歌います(三重唱)!
オペラに限らずドラマを盛り上げるにはこうした三角関係は欠かせない要素ですね!
そうこうしている間に広間には王様とその召集を受けた神官や軍隊長達がぞろぞろとやって来ます。
王様はエチオピア軍が国境を越えて進行してきた事を告げますが、その場でラダメスがエチオピア軍を迎え撃つ舞台の最高指揮官になる事が告げられます!ラダメスの冒頭での夢がかなった瞬間です!!
ここで全員で戦争での勝利を祈願してその場はお開きになりますが、皆が広間を去った後でアイーダが一人残されます。
アイーダは自分が愛するラダメスの勝利を願いたいところですが、それは同時に祖国、そしてそれを率いる父の敗北を意味します。その葛藤に苦しむアイーダはいっそのことならと死を願います(アイーダのアリア)。
舞台はウルカヌス神殿の内部へと移ります。神官たちがいる神殿内で勝利を祈願する宗教儀式が行われます。巫女たちは神にささげる舞を踊り、そこへ連れてこられたラダメスは祭司長のラムフィスより聖剣を受けます。
そこで一同、古代エジプトにおける創造神プタハに祈願します。最後にみんなで”Immenso Ftha(広大無辺のプタハ!)”と祈願する場面はなかなかかっこいいです。
舞台はテーベの宮殿内のアムネリスの居室。
エジプト軍はエチオピア軍に勝利し、間もなく凱旋してきます。ラダメスの帰りを心待ちにするアムネリスは、奴隷たちに勝利の宴の準備をさせています(踊り)。
そこにアイーダがやって来ると、ラダメスとアイーダとの仲を疑うアムネリスは、アイーダに一芝居しかけます。「ラダメスが戦死した」、とさらりと嘘をついてアイーダの反応を確かめたのです。
その反応からアイーダのラダメスへの愛を確信したアムネリスは、自分もラダメスを愛している事を告げ、アイーダに対して恋敵だと責め立てます。それでも怒りは収まらずさらには恋をあきらめるようにと迫ります。アムネリスの姫としてのプライドの高さが良く見える場面です(アムネリスとアイーダの二重唱)。
奴隷の立場であるアイーダは逃れられない苦しみから、死を願って神に慈悲を乞います。
舞台はテーベ街の城門へと移ります。城門前は戦争から帰還する軍を迎えるために、多くの民衆で埋まっていますが、そこに王様や祭司長、神官たちが登場します。続いて奴隷アイーダを伴い姫のアムネリスも登場し、王が玉座に座った所から物語がスタートします。
民衆や神官たちが勝利を神に感謝する中、遠征からエジプト軍が凱旋してきます。ここで聞かれる音楽が、かの有名な凱旋行進曲になります。
王に迎えられたラダメスは、アムネリスより勝利の花冠を受け取ります。
王はラダメスに対して勝利の褒美は何が良いかと問いますが、その問いに答える前に、ラダメスはエチオピアの捕虜を王様に引き合わせます。
すると、捕虜の中にはアイーダの父親であるアモナズロの姿があったのです。思わず叫び声をあげたアイーダの反応で、そこにいた皆が、アモナズロがアイーダの父である事を知る事になります。
アモナズロはエチオピアの王ですが、その身分を隠し、あくまで一兵士を装います。
ラダメスは、勝利の褒美として、アイーダとその父親を人質として残し、残りの捕虜を解放する事を要求します。
王はその要求を認め、さらにラダメスに娘のアムネリスを与える事、そして将来エジプトを治める事を促します。
アムネリスはこれを聞いて歓喜し、またアイーダは絶望に打ちひしがれます。さらにアモナズロは復讐を誓います。
ラダメスと密かに会うために一人現れたアイーダの下に父のアモナズロがやって来ます。彼の目的は、アイーダにラダメスから軍事秘密を探り出させる事でした。
アイーダは恋人を裏切る事はできない、と抵抗しますが、アモナズロも祖国のために尽くすようにと強く要求します(アイーダとアモナズロに2重唱)。
再会の喜びに満ちたラダメスがそこへやってくると、アイーダは二人の愛を成就させるためには、二人で逃亡するしかないと言い、ラダメスも最終的にはそれに同意します。
アイーダの逃げ道は?との問いに、ラダメスは軍の秘密であるルートを明かしてしまうと、それを影で聴いていたアモナズロが姿を現します(ラダメスとアイーダの二重唱)。
アイーダとアモナズロは国の重要機密を漏らした事で戸惑うラダメスをなだめて、エチオピアに亡命する事を進めますが、その場をアムネリスに抑えられてしまいます。
ラダメスはなんとかこの二人を逃がすことには成功しますが、彼は罰を受ける覚悟でその場に留まります。
アムネリスは、囚われの身となったラダメスの身を案じています。ラダメスを呼び出したアムネリスは、彼を救い出すために、裁判で弁明をするようにと説得しますが、ラダメスは愛する人を失った今、生きていても仕方がないとアムネリスの訴えを拒否し、刑を受け入れる決心をします(ラダメスとアムネリスの2重唱)。
ラダメスはそのまま地下法廷へと連れていかれ、その場で裁判にかけられますが、一切の弁明を拒否したために、そのまま国家反逆の罪での生き埋めの刑が決まります。
アムネリスは祭司長や神官に慈悲を乞いますが、拒否され、神官たちに天の復讐をと呪います。
ラダメスは地下牢に入ると、その岩戸が閉じられ生き埋めとなります。死を受け入れたラダメスは、アイーダが幸せに生きる事を願いますが、なんとそこにアイーダの姿を発見します。
アイーダが先回りして牢に忍び込んでいたのでした。
死を受け入れたラダメスでしたが、アイーダが死ぬ運命にある事を悲しみ、岩戸を動かしてアイーダを逃がそうとあがきます。
しかしそれも無駄なあがきだと悟ると、二人は、死こそが二人の愛にとって永遠の天国への扉であると夢見ながら息絶えます。
神殿では喪服姿のアムネリスがラダメスのために祈りを捧げます。
ではこれから一緒に「アイーダ」の音楽的な見どころを見ていきましょう!
「アイーダ」の主な見どころ!
「アイーダ」においては、演出的にもド派手な2幕の凱旋行進曲が有名ですが、このオペラの見どころはなんといっても登場人物の心理を音楽的に描いた3幕と4幕です。ストーリー的にも動きがあって面白い所です。
オペラの最大の魅力はストーリーや演出だけでなく、なんといっても音楽です。登場人物の様々な心理、感情が音楽で表現されています。音楽を通して、登場人物の感情が私達聴衆に直接ぶつかってくるというわけです。
このオペラの見どころはたくさんありますが、その中から3つに絞って魅力を紹介します!
①第4幕第2場!アイーダとラダメスの2重唱(フィナーレ)
このオペラの最大の見どころはなんといってもオペラのフィナーレにあたるアイーダとラダメスの2重唱でしょう。このオペラの結末は数多くあるオペラの中でも圧倒的に美しく、そしてとてつもなく悲しい結末となっています。
ラダメスは国を裏切った事で、地下牢に生き埋めとされる事が決まります。
すでにアイーダを逃がしたラダメスは、彼女の幸せだけを願って、生き埋めの刑を受け入れて地下牢へと閉じ込められます。
しかし彼がその地下牢の中で見たものは、なんとアイーダの姿でした。逃げたはずのアイーダは、自らラダメスと運命を共にするために先回りして地下牢に入っていたのです。台本にも音楽にも書かれてはいませんが、アイーダはこの時点で逃亡のためにかなり衰弱しているとみるのが妥当でしょう。
感動の再会の場面だと思いますよね。しかしヴェルディが描いたのはそんなに単純な最後ではありません。
アイーダを見たラダメスが放った最初の一言は“Tu…..in questa tomba(お前がこの墓の中に・・・)”というなんとも悲痛の一言でした。
※再生ボタンを押すと楽譜に対応した箇所から再生されます。あくまで譜面の確認としてここでは動画サイズは小さくしてあります。
一度は死を覚悟したラダメスであっても、愛するアイーダが自分のために死ぬことになってしまった現実を受け入れる事は出来ませんでした。
それどころか「あなたは死んではならない・・」と歌いながら、最後に力を振り絞って地下牢の岩戸を動かしてアイーダを逃がそうとまでするのです。
しかし地下牢の岩戸が中から開けられるはずもありません。ラダメスは結局あきらめるしかなく、最後に二人で“o terra addio(おお、この地よさらば)”と二人の魂が天国で一緒になる事を夢見ながら歌うのです。
この最後のセリフにヴェルディが付けた音楽が特に素晴らしいです。まず、最初にアイーダが、そしてその後でラダメスが同じ旋律を歌います。そして最後にこの二人は全く同じ旋律を歌うのです。
2重唱と言えば、たいてい3度とか6度のハーモニーを歌うのが一般的ですが、ヴェルディはこの二人の主人公にまったく同じメロディーを歌わせるという方法を取りました。
これによって音楽的にもこの二人は結ばれたこととなります。
このオペラの結末は数多くあるオペラの中でも本当に美しく悲しい結末となります。アイーダの最大の魅力はまさにここにあると言っても良いでしょう。
②第3幕:アイーダとラダメスの2重唱:“Pur ti riveggo”
次の見どころとしては、またしてもアイーダとラダメスの2重唱を選びました。三幕の後半で歌われる2重唱です。
この2重唱の中で、ラダメスは幸せになるためにはアイーダとエジプトを逃げ出すしかないと逃亡を決断しますが、逃亡経路を明かす際に軍の配置という国家機密を明らかにしてしまいます。しかしそれをアイーダの父でありエチオピアの王であるアモナズロに盗み聞きされてしまうというストーリー的にも重要な場面になります。
しかし一番の魅力はなんといってもラダメスとアイーダに求められる音楽的なドラマ性でしょう。この2重唱はこのオペラの中でも二人の主役を歌う歌手に最も高い技術と音楽的な力を要求します。
ストーリーだけでなく、二人の主役の腕の聞かせどころともなっているというわけです。!
この2重唱はまずはラダメスがアイーダに会いにやって来るところから始まります。ラダメスはその喜びを最初から爆発させてアイーダに近づきますが、対するアイーダは非常に素っ気ないです。その原因は2幕の最後で王がラダメスと娘アムネリスの結婚を約束したためです。
アイーダにして見れば、その定めからは決して逃れる事はできない、だからいまさらここで愛を温め合う事など無意味だ、というスタンスですね。
でもラダメスはアイーダを守ると言ってなんとか説得しようと試みます。それでも無理だと言うアイーダですが、彼女にも一つだけ愛を成就させる方法がありました。
その方法とは二人でエジプト国外へと逃亡する事です。
今度は、アイーダが一緒に逃げようとラダメスに迫る番です。しかし軍人であるラダメスには祖国を捨てるという決心がなかなかできません。
アイーダもさっきの態度とは打って変わって、私を愛していないのならば、もうこの場から去ってアムネリスと結婚するようにと、ラダメスを突き放します。
結局その一言で決心がついたラダメスは、ついに“一緒に逃げよう”と言うのです。二人の愛はここで最高潮に達します。ヴェルディもここには素晴らしい音楽を付けていますから、ぜひとも聴いて欲しい所です。
一緒に逃げると誓った二人にとっては未来は希望に満ちた明るい物なのです。この二人は交互に同じメロディーを歌った後で、全く同じ旋律をユニゾンで歌います。
しかしここでアイーダがしばし現実に帰ります。“逃げると言ってもいったいどうやって?”と言うわけですね。
しかしそんなものは軍人のラダメスにとってはどうって事ありません。彼はエジプト軍が敵を迎え撃つルートであれば、明日の侵攻までは無人だろうと提案します。そしてその進路がナパタであることを明かしてしまうのです。
すると、そこで盗み聞きをしていたエチオピア王のアモナズロが姿を現します。王アモナズロは、この秘密をエチオピアに持ち帰って、エジプト軍を迎え撃ちにするつもりです。
自分が軍の機密を漏らした相手がエチオピア王であることを知ったラダメスは、軍人としてとんでもない罪を犯した事に気が付きます。ここでのラダメスの狼狽ぶりは音楽的にも現れていますので注目してください。それを見たアイーダとアモナズロは一緒にエチオピアに亡命するように説得しますが、そうこうしているうちにアムネリスに見つかってしまうのです・・・
ラダメスはアイーダとアモナズロを何とか逃がす事に成功しますが、自分は罪を償うために一人その場に残ります。
この場面は、様々な感情が交錯し、さらにストーリー的にもオペラの鍵となる非常に魅力的なものとなっています!
※古いですが日本語字幕に対応したものもリンクしておきます。
③第4幕第1場!アムネリスとラダメスの2重唱~裁判の場
3つ目の聴きどころはどこにするべきか本当に迷いましたが、やはり主人公の一人であるアムネリスを外すわけにもいくまい、という事で4幕第1場より、アムネリスとラダメスのデュエットを選んでみました。
これで私が選んだこのオペラの聴きどころ全てが二重唱という事になりましたね。
アイーダを語る上ではやはりアムネリスは重要です。ラダメスを愛するエジプト王の娘は、このオペラを通してアイーダへの嫉妬、ラダメスへの愛、姫としてものプライドなど、本当に様々な感情を見せてくれます。
そしてアムネリスの様々な感情が最も良く現れているのがこの場面です。
国の秘密をばらしたラダメスが捕まってしまったのはアムネリスのせいです。まだラダメスを愛しているアムネリスは、二人の秘密の会談を見つけて相当なショックを受けたと思われますが、まだラダメスへの愛を諦めてはいません。
これから行われる裁判でラダメスが弁明すれば、死刑を避けられるかもしれない、自分にだったらラダメスを助ける事ができるかもしれない、と真剣に考えます。
ラダメスへの愛を自覚している時のアムネリスの旋律は甘く美しいです。
そこで、アムネリスはラダメスを呼び寄せ、裁判の場で弁明するように説得を試みます。しかしアイーダを失ったラダメスに生きる希望はありません。死ぬことこそが最高の幸福とラダメスはもう死ぬことを覚悟しており、アムネリスの助けをことごとく断ります。
それでもアムネリスは諦めません。ラダメスに向かって“私の愛のために生きなさい!”と迫る時の音楽には大きな愛が感じられますね。
アムネリスがこの会話で見せる心理描写というのは非常に興味深いです。ラダメスへの愛、アイーダへの嫉妬、そしてラダメスに拒絶された大きな怒りが音楽的にも現れています。
ラダメスに拒絶されて、“この罰当たりめが!Siagurato”と叫んでしまうあたりは、最後まで姫としてのプライドが見えますね。
このようにしてアムネリスの激しい怒りで2重唱は終わってしまいますが、その後の裁判の場面で見せるアムネリスの苦悩も必見です。
ラダメスは死を覚悟しているため、裁判において一切の弁明を拒絶します。そのため死刑となるのですが、アムネリスはこのようになってしまった原因が自分にあると激しい後悔を見せます。そして自分自身の嫉妬を恨むのです。
ラダメスが死刑にならないようにと神々に慈悲を乞いますが、それも結局聞き入れられる事がありません。ラダメスが生き埋めとなる事を聞いたアムネリスは、最後には神官や祭司たちを罰あれ!と呪うのです。
アムネリスは2重唱の後で神々に慈悲を乞いますが、それが叶わないとわかると、祭司や神官たちを呪うんです。アムネリスの性格がすごく良く出た場面です。
おすすめのCDは?
私がおすすめするCDはビルギット・ニルソンがアイーダを、そしてフランコ・コレッリがラダメスを歌った全曲録音です。指揮はズービン・メータ、そしてオーケストラはローマ歌劇場が担当しています。
トゥーランドット等で度々共演したニルソンとコレッリの名コンビはここでも健在です。最初から最後まで、迫力のある歌唱を聴かせてくれます。
それからレナータ・テバルディがアイーダを、そしてジュリエッタ・シミオナートがアムネリスを担当した全曲録音も中々良いですよ。指揮はカラヤン、オーケストラはウィーン・フィルハーモニーが担当しています。
おわりに!
今回はアイーダの見どころとして3つの場面を紹介しました。この他にも有名な凱旋行進曲やラダメスが冒頭で歌うアリア、“清きアイーダ”も「アイーダ」を語る上では外せませんし、所々にダンス音楽が取り入れられており、演出によってはバレエを楽しむことが出来ます。
ただ凱旋行進曲は演出的な要素が強い場面ですから、台本、そしてヴェルディの意図した通りに演出しないと、その良さが生きてきません。最近は、台本や作曲者の意図を無視した演出も多いので、実際に劇場にオペラを見に行く場合は、この場面にあまり過度な期待をしてしまうと、かえってがっかりする可能性もありますね・・。
しかしどんな演出であれ、音楽は変わりません。アイーダは本当に素晴らしいオペラですのでCDでも、DVDでも、それからライブでもぜひ一度ご覧になってみてください!
※参考文献:ニューグローブ世界音楽大辞典、オペラ対訳ライブラリー(音楽之友社)、Handbuch der Oper(Bärenreiter)