みなさん、こんにちは。
今回は発声の話をしましょう。
みなさんは口の開け方についてどのように教わりましたか?おそらく結構な数の人が中学校の合唱の授業などで、“口を縦に大きく開ける”と教わるのではないでしょうか?実は私もその一人でした。
つまりほとんどの人は声楽のレッスンを受ける前に、学校などで“口を縦に大きく開ける”と教わり、そこからスタートしている事になります。
合唱をやっている高校生を見ても、とにかく一生懸命口を開けて歌っていますしね。また、オペラ歌手に対して口を大きく開けて歌っているというイメージを持っている人も多いのではないでしょうか?
でも、これって本当に必要なのでしょうか?もしそうならどうして口を縦に開ける必要があるのでしょうか?
さっそくその答えを見ていきましょう。
もくじ
Q:口を縦に開ける必要はあるのか?
A:口を大きく開ける必要はありません!
答えは実にシンプルです。口を大きく開ける必要は全くありません。
私達が歌う上で必要なスペースは口の中のスペースではありません。私達に必要なのはあくまでその奥のスペースになります。これは口を大きく縦に開けても、決して広がる事はありません。
私達がやらなければならないのは、口を大きく開ける事ではなく、喉の奥のスペースをしっかりと意識して広くしていくことです。
これをしっかりと理解しない事には先には進めません。
喉の奥のスペースとは?
喉の奥のスペースについてはすでに喉を下げる方法で紹介していますので、手短に行きましょう(喉を下げる方法についての詳しい説明はこちらをご覧ください)。
まず上の図を見てください。これが通常の状態です。注目してほしいのは舌の後ろのスペースです。響きが豊かで丸みを帯びた声を出すには、このスペースが必要となります。
このスペースは口を縦に開けただけでは広がりませんので、そこを誤解しない事がまず大事です。
このスペースを最大限に活かすには、①舌が後ろに下がってスペースを邪魔しないようにする事、そして②喉が一番下まで下がる事が重要となります。これができると下の図の赤線の部分のようにスペースが広がります。
手書きの図なので分かりづらいかもしれませんが、実際に舌の後方のスペースが広がっていますね。大事なのはこのスペースです。
繰り返しになりますが、私たちがやらなければならない事は口を縦に大きく開ける事ではなくて、その後ろのスペースを広げる事なのです。
口を大きく開いてしまう事の弊害!
その事をはっきりと認識しないままに口を縦に開けようとしてしまうと、いくつかの弊害があります。
その一つは、口を大きく開けた事でできたスペースを歌う事に必要なスペースだと誤って認識してしまう事です。
私たち人間には、誰にでもうまく歌いたいという欲求があります。より豊かに響く声で歌いたいと思うのは自然な事ですからね。
なので、無意識に響くスペースというのを求めようとしてしまいます。口を大きく開けると、口の中のスペースは大きくなりますから、自分でも響きが増えたかのように感じてしまいます。
しかしこれは大きな誤解です。喉の奥のスペースという肝心のスペースが大きくならない限り、それが声に良い影響を与える事はありません。むしろ、声が奥にこもってしまったり、逆に大きく広げすぎて開きすぎた平坦な声になってしまう危険性もあるのです!!
もう一つの弊害は、口を大きく開けてしまうと、奥のスペースを開けるのが実際に難しくなってしまうという事です。これはあくまで私の感覚的なものですが、高い音などで口が大きく開きすぎてしまった場合は、喉をしっかりと下げきれない事が多いです。先に口を大きく広げすぎてしまうと、なぜか奥まで広げることが出来なくなってしまいます。
そういう時は、口を開けないようにすることで、意識を奥のスペースに集中させることができるようになります。
Q:口を大きく開いて歌うのは間違いなのか?
良い質問ですね。早速見ていきましょう!
A:間違いではない。
口を縦に大きく開ける必要は全くないと最初に言いましたが、だからと言って口を大きく縦に開けて歌うのが間違いか、というとそうでもありません。
あくまでダメなのは、口が開いていても奥がまったく開いていないという事です。奥がしっかりと開いていれば口が開いていることが必ず悪いということはありません。
ただ口を大きく開けてしまうと、いろいろとコントロールするのが難しくなることは事実です。間口は広いよりも狭い方がコントロールしやすいです。
最高音など、とにかく筋肉をたくさん引っ張らなければならないような時に口が大きくなるのは仕方ありませんが、常に大きな口を開けて歌うのはコントロールがしっかりできていない可能性があるので注意した方が良いですね。
Q:レッスンで口を大きく開けろと言われるけど、これって正しいの?
私はレッスンで下あごをもっと下げて、口を大きく開けろって言われますが、これって正しいんでしょうか?
A:時と場合による
レッスンでの助言は生徒一人一人のその時の癖によって異なります。生徒によってはとにかく喉の奥だけでなく、顎など、とにかくいろいろなところに力が入ってガチガチになっている可能性もあります。そういう癖をほぐしていくために、まずは口を開けていくという方法を取る事が有効な場合もあると思います。
しかしその場合、教師は生徒にどうして今口を大きく開ける必要があるのかを説明する必要があると思います。
これは声楽のレッスンにおいては意外と軽視されがちですが、どうしてそのような事をするのか?というのをしっかりと説明するのは非常に大事な事ですね!!
レッスンを受けている人も、どうして口を開けなければならないのか、疑問に思ったらすぐに先生に質問してみるべきです!
オペラ歌手の口の開け方を実際に見てみよう!
ではオペラ歌手はいったいどのぐらい口を大きくあけて歌っているのか見てみましょう!
こちらはイタリア人のテノール歌手、ルチアーノ・パヴァロッティがドイツのテレビ局で歌った時の映像になります。歌っているのは日本でも人気の歌曲、トスティ作曲の“Ideale(理想の人)”です。
口の開け方にぜひとも注目してください。全体を通して口は非常にリラックスした状態であることが分るでしょうか?母音がAになると、多少口が大きく開きますが、それ以外の母音ではほとんど口が開くことがありませんね。
また音を伸ばしている間にパヴァロッティの口がリラックスしてどんどん閉じていく様子も見られます。
パヴァロッティは喉の奥のスペースがしっかりと開いていますから、わざわざ口を大きく開く必要がないんです。
唯一口が全開に近い状態になっているのが、2番目の途中で最高音(高いラの音)を歌う時ですね。音が高くなったりすると、喉を下げるためにより多くの首の筋肉を使う必要がありますから、それに伴い口が多少大きく開くのは自然な事です。
もう一つ口の開け方の例を見てみましょう。こちらはイタリア人のテノール歌手、ティート・スキーパが歌うフロトウ作曲のオペラ「マルタ」に出てくるアリア“ M’appari, Tutt’ Amor”になります。
スキーパの口も終始リラックスしており、一曲を通してだいたい半開きな感じですね。パヴァロッティの時と同様にAの母音の時は他の母音と比べて多少口が大きく開きますし、クライマックスの最高音が近づいてくると口の開きも多少大きくなります。
スキーパも喉の奥のスペースがしっかりと開いているので、常に口を大きく開いて歌う必要がないというわけです。
確かにオペラ歌手には口を開けるイメージってあるけど、決していつもそうしているっていうわけではないってことだね。確かにそんなに大きく開いていない時の方が多いよ。
おわりに
今回は口の開き方についての話でした。
口と言うのはとにかくむやみやたらに開ければ良いというものではありません。大事なのは、喉の奥のスペースをしっかりと開くという事です。
これをやるのには結構なトレーニングを必要としますが、それが出来れば、むやみやたらに口を開ける必要もなくなります。
そして何より口はそんなに開けない方が見た目も良いです。常に口を全開にして歌っていては演技も表情もあったものではありません。もちろん全開にする必要がある時もありますが、見た目が良いというのも非常に大事ですよ!!
今回は口の開け方についてのお話でした!
大事なのは奥のスペースってのは分かったよ。でも口を開いて歌ったら間違いなのかい?