【声楽・オペラ】ベルカントって何??ベルカント唱法について説明!

こんにちは。

このブログでは発声の話もしていこうと思っているのですが、その話をする上で避けて通る事が出来ないのがこのベルカントという言葉です。

いきなり思い出話になりますが、私が国立音楽大学に入ったばかりの頃でした。パヴァロッティの先生として有名なアリゴ・ポーラが大学まで教えに来たのです。大学の小ホールで公開レッスンが行われたのでそれを聴きに行った事を覚えています。。

レッスンの最後ではポーラが何か質問はないかと、学生たちに聞いたんですが、みんな恐れ多くて中々質問しません。しかしそんな中で私の同級生の一人が勇気をもって質問しました。

「ベルカントって何ですか?」と。

この時のことは今でもはっきりと覚えていますよ。この質問をした瞬間に会場が非常に気まずい雰囲気に包まれたんです。みんな「こんな大先生の前でそんな当たり前の事質問するなよ・・・恥ずかしい・・」と思っているようでしたし、後日実際にそのような声を耳にする事にもなりました。

アリゴ・ポーラは実際にその質問をした私の同級生を舞台に呼んで、歌わせてレッスンをしようとしました。短い時間ではありましたが、彼なりになにかしら答えてあげようとしていた事をよく覚えています。

それとは対照的に周りの反応は非常に冷たいものでした。

しかし今だからはっきり言えます。いったいあの会場にこの質問にはっきりと答えられる人がどれだけいたでしょうか?たぶんほとんどいなかったと思います。

思い出話が長くなりましたが、今回はこのベルカントについて話をしたいと思います。

ベルカントとは何か?

まず、ベルカントという言葉の由来に触れてみましょう。これはイタリア語のbel cantoという言葉に由来しますが、直訳すると美しい歌、もしくは美しい歌唱になります。

しかしもちろん「美しい歌」という意味でベルカントを使う人はほとんどいませんね。では実際にどのような使われ方をしているのか見ていきましょう!

音楽様式としてのベルカント

まず最初に挙げられるのが音楽様式としてのベルカントです。イタリアの作曲家ロッシーニ、ベッリーニ、ドニゼッティ、そしてヴェルディの作曲したオペラを「ベルカント・オペラ」と言ったりしますが、彼らのオペラの作曲スタイル、いわゆる彼らの様式をベルカントと呼んでいます。

ベルカント・オペラの特徴は、なんといっても歌の美しさが際立つように作曲されているという点です。アリアにおいては歌の美しさが際立つように、オーケストラの伴奏は和音を奏でる程度でほとんど目立たないように作曲されています。アリアはたいてい美しい歌声とそのラインを聴かせるためにゆっくりとしたものが多く、その後にはさらに歌手の技術を示すためにカバレッタと呼ばれる、テンポが速い曲が作曲されました。

ヴェルディの中期の代表作である「トロヴァトーレ」では主役のマンリーコが「A si, ben mio」というアリアを歌った後で、「Di quella pira」というカバレッタを歌います。イタリア人のテノール、アウレリアーノ・ペルティレの演奏でこのアリアとカバレッタを聴いてみましょう。

A si, ben mio

Di quella pira

こうしたベルカント様式もヴェルディの後期にかけて次第に変化していきます。さらなる劇的効果を高めるために、オーケストラがより華やかになり、アリアやレチタティーボ(セリフ)の区別もだんだんなくなっていきます。こうして徐々にベルカント・オペラからヴェリズモオペラへと変化していくことになります。

ヴェルディは生きている間にオペラの様式をベルカント様式から変化させたために、彼のオペラをベルカント・オペラとはみなさない人たちもいますね。 テノール歌手のプラシド・ドミンゴはインタビューの中で(プラシド・ドミンゴ オペラ62役を語る)ベッリーニとドニゼッティのオペラをbel canto(小文字のベルカント)オペラ、そしてヴェルディのオペラをBel canto(大文字のベルカント)オペラとしてこの二つの様式をさらに細かく区別しています。

歌唱法としてのベルカント

ベルカントが音楽様式を意味しているという点についてはざっくり話しましたが、もう一つの使われ方が、いわゆる「歌唱法としてのベルカント」になります。ベルカントと言ったらだいたいこの歌唱法を指すことの方が多いかもしれません。

では歌唱法としてのベルカントとは何なんでしょうか?実はこれを説明するのが非常に厄介なんです。というのも歌唱法としてのベルカントと言っても、これは人によって言っている、もしくは思っていることがまるでバラバラだからです。

まずはどうしてこうなってしまったのか話してみましょう。

ベルカント!歌唱技術ではなくて理念だけが受け継がれた・・

ベルカントという歌唱法が何なのかを言葉で定義するのは簡単ではありません。しかしそう言っていては話が先に進みませんから、まずは話を進めるうえで簡単に定義してみましょう。

ベルカントとは、カルーゾーやペルティレ、ジーリ、スキーパ、マルティネリなどの1900年代から戦後にかけて大活躍した往年の大歌手に共通する歌唱法です。実際の所、この時代の歌手たちも一人一人欠点があり、さらに必ずしもみんな同じ歌い方をしているわけではないのですが、確かに共通している良い部分があります。

まずはこの往年の大歌手たちに共通している良い部分(技術)をベルカント歌唱法と呼ぶことにして話を進めましょう。

ヨゼフ

とりあえず了解したぜ!

日本で声楽がさかんになってきたのは、第2次大戦後になってからの事だと思いますが、その世代の声楽家たちの多くが上に挙げた大歌手の歌い方をお手本として勉強するようになりました。 その大歌手の一人であるマリア・カラスは自身のインタビューの中でベルカントで歌う事こそが最も大切だと発言していましたが、当然、当時声楽を学ぶ人たちも、このベルカントという歌唱法を目指したでしょう。 当時は本当に良い歌手が沢山いましたから、それを手本にするのは当然の流れですね。中にはこうした大歌手、もしくはその弟子に直接師事した人たちもいたことでしょう。

ヨゼフ

実際に生で大歌手の演奏を聴けたなんて羨ましいね!

そうしてその世代の日本の声楽家たちも、時代と共に学んだものを次の世代に伝えていくことになります。しかし実際の所、自分たちが目指すべき歌唱法がベルカントであるという事は分かっていたものの、そのベルカント歌唱法の技術を体得できた人はまだほとんどいませんでした。

これはあくまで私の個人的な意見ですが、日本ではこの段階でベルカントの歌唱の技術ではなくて、ベルカント歌唱法の理念が強く受け継がれてしまったのではないかと思っています。

でもそれはある意味仕方がないことです。ベルカント歌唱を目指したけれど、そこに近付けた人はごく僅かでしょう。ほとんどの声楽家はそこまでたどり着くことが出来ませんでした。となれば教えられるのは、どうしてもベルカントの歌い方ではなくてベルカントとは何なのかという理念の話になってしまいます。

この段階で多くの声楽教師たちが、本来の意味を本当に体感することなく、ベルカントとは何なのかを語る事になりました。ベルカントとはこういうものだと説明するための言葉を作り出し、声楽を学ぶ人はみなそれを目指さなければならない、と教えていったわけです。そしてそうした教えを受けた次の世代も、そこで聞いた言葉を使って次の世代へと語り継いでいく事になったわけです。

しかし歌唱技術のように感覚的な物事を、それをまだ経験したことがない人に言葉で説明するのは非常に難しいです。そもそも教師が思っている通りに言葉で表現できているという保証はありませんし、生徒が教師の意図した通りに理解したという保証もありません。

また、こうした感覚的な物事を扱う世界では、同じ言葉を使っていても思っていることは全く逆だったという事がありますし、逆に違う言葉を使っていても実は思っていることは一緒だった、という事もあります。

それだけ言葉で何かを伝えていくというのは難しい事なのです。

ヨゼフ

そういえばレッスンで先生に「顔の前にぶら下げられたニンジンを追いかける馬になった気持ちで歌いなさい」て言われたけれど、なんのことかさっぱりだったな~。

でも実際にそのようにしてベルカントと言う言葉が何十年にもわたって使われてきたわけです。

その結果、今ではベルカントという言葉が様々な形で多くの人に伝わり、言葉だけが独り歩きしてしまいました。みんな実際に良く使い知っている言葉ではあるけれど、思っていることはみんなバラバラという事態になってしまいました。

私にとってのベルカントとは?

でもいくらなんでもこれでベルカントについての話を終わりにする事はできませんね。なので、私にとってのベルカントを私の言葉で説明してみます。

ヨゼフ

いよいよ本題だね。待ってたぜ!

まず、話をすすめるにあたり、とりあえずという形で定義してみましたが、私はベルカント発声とはカルーゾーに始まり、ジーリ、スキーパ、ペルティレなど、往年の大歌手に共通した良い発声法だと考えています。

そしてそれが私が目指すべき歌唱法でもあります。

ヨゼフ

まあそれは分かったけれど、それだけじゃ説明になってないぜ!

その通りですね。では具体的にはどのような歌唱法なのか話をすすめていきましょう。

まず一番重要となるのが、喉の位置です。男性だったら喉仏があるので分かりやすいですが、歌うときはこの喉が最も下がった状態をキープしなければなりません。これはあくびをする時の位置に近いですね。下がった状態をキープする事で話をするときよりもさらに沢山のスペースを使う事ができるようになります。

そしてその下がった状態キープするためには舌の筋肉ではなくて、首の筋肉を使います。舌の筋肉を使うと喉を下げるのは簡単ですし、実際に多くの歌手がそうしていますが、その代償として喉のスペースが狭くなってしまいます。それでは声の広がりは決して生まれません。なので私たちは首の筋肉を使って喉を下げなければならないんです。

このように舌を使わずに首の筋肉を使って喉を下げるトレーニングする事で、次第にどの母音も、どの高さの音も同じ位置で発声できるようになります。これができるとまったく途切れることのない美しいレガートが可能となります、高い声を出す前に母音を変化させたりする必要もなくなります。

これが私にとってのベルカント歌唱法の基本です

しかし普段高い声を出そうとすると喉の位置がどんどん高くなってしまうので、どの音もどの母音も同じ位置で発声するというのは決して簡単ではありません。

それを可能にするために、首の筋肉に加えて呼吸の筋肉などが必要になります。これらの筋肉を徐々に鍛えていくことで、喉の位置がしだいに安定していきます。最初は高い音を歌うたびにピクピク上がっていた喉も、まったく上がらなくなります。びくともしない楽器をつくるようなものですね。

ヨゼフ

とりあえず、首の筋肉を使って喉を下げればいいわけだな。まあニンジンよりかはずっとイメージしやすいよ。

じゃあ具体的にどこの筋肉をどう使うのか・・という話に進んでいくわけですが、それは今後テーマごとに分けて話をしていくつもりでいます。とても一回で話せる量ではありませんので・・。

ヨゼフ

せっかくいい所に来たのに、もう終わりかよ!!

エリザベス

ちょっとあなた静かにしてくださらないかしら!・・・

私にとってのベルカントの基本

全ての母音、すべての音を同じ位置(正しい位置)で歌う事。

歌唱テクニックを教えるのにベルカントという言葉は必要ない!

さて、私にとってのベルカントについては説明しましたが、私は歌唱テクニックを教えるのにベルカントという言葉は必要ではないと思っています。その理由は先にも言ったように、ベルカントと言う言葉が独り歩きしている状態だからです。そんな現状でベルカントという言葉を使っても生徒が混乱するだけです。

もちろん生徒に正しい歌唱法がどういう物であるかをしっかり教えるのは必要です。私だったら実際に良い歌い方をしている歌手の録音をたくさん聞くことを勧めます。(また時には悪い録音を聞かせてどうしてそれが悪いのかを説明する必要もありますね。)

そしてその歌手のように歌うためにどうすればよいのかという事を教えると思います。

繰り返しになりますが、往年の大歌手のように歌うのにベルカントという言葉を使う必要はありません。大事なのはどの筋肉を使って喉を下げたらよいかどこの筋肉を使って呼吸を支えたらよいか、そしてどのような練習をすることによってそうした筋肉を効率的に鍛えていくことができるか具体的な方法を示すことだと思っています。

イタリアのテノール、ティート・スキーパの歌唱です。どうしたらこういう風に歌えるでしょうか?それを教えるのにベルカントと言う言葉は決して必要ではありません。

おわりに

今回は、ベルカントについての話でした。現在では、音楽様式としてのベルカント、それから歌唱法としてのベルカントと主に二つの意味で使われています。その中で私にとってのベルカントについても触れましたが、具体的な発声の話は今後、項目ごとに分けて話をしていく予定でいます。お楽しみに!

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