こんにちは。
さて、いよいよ発声についての具体的な記事を書いていきたいと思います。
まず最初に取り上げるのが、“喉の位置を下げて歌う“という事です。
正しい歌い方には、喉の位置が下がっていることが欠かせません。これはどうしてでしょうか?今回はそれを一緒に見ていきましょう!
もくじ
どうして喉を下げなければいけないのか?
声帯を伸ばすため!
私たちは声帯を伸縮させて歌を歌いますが、声帯は甲状軟骨という骨とくっ付いています。(甲状軟骨というのはいわゆる喉仏の事ですね。)この甲状軟骨を下げることで実際に声帯を伸ばすことができる仕組みとなっているわけです。

甲状軟骨は実際には真下に下がるのではなくて少し前方に倒れるように動くとされています。いずれにせよ全体で見れば下がったようになりますから、私はこれを喉が下がった状態と呼んでいます。男性の場合はこの喉仏が実際に下がりますので、外からでも良く分かります。
さて、私たちは声帯を伸縮させて歌うわけですが、高い音を出すためには声帯をより引っ張る必要が出てきます。その時に必要となる動きが、この喉が下がる動きです。喉が下がる事で、声帯が引っ張られて高い声がでるというわけです。
声を響かせるスペースを確保するため!
さて、声帯を伸ばすときは喉を下げる必要がある事に触れましたが、喉を下げる事の変化はそれだけではありません。実は喉が下がる事で喉の内部により多くのスペースを作る事が可能となるのです。そしてそれこそが豊かな響きのある声を作るのに欠かせない要素となっています。
まずは図を下の二つの図を見てみましょう。

これが通常の状態だとしましょう。舌の後ろにスペースがありますね。響きのある声にするためには、このスペースをできるだけ広くしなければなりません。
広くするために動かせる部分は3つあります。一つは軟口蓋、二つ目は舌、そして三つ目が喉です。軟口蓋を少し上に、そして舌を少し前に、さらに喉を少し下げるとどうなる見てみましょう!!!

スペースが広くなりましたね。これが豊かな響きを持った声につながります。歌手はこのスペースが安定するように日々トレーニングをする必要があります。最初のうちは舌も後ろに行きやすいですし、喉も上に上がりやすいです。なのでスペースが小さくなったり大きくなったりと安定しません。しかし毎日トレーニングする事で徐々にこのスペースが安定してきます。これが声の成長となるのです!!
でもやっぱり高い音を出すと喉が上がる・・・
しかし喉の位置を下げるのは決して簡単ではありません。

私は高い音を歌うときにいつも喉が上がって苦しくなってしまいますヨ・・・。
なぜなら普段の生活の中でそのように喉を下げてしゃべることなんかないからです。特に日本語の場合、高低のイントネーションを作るために、喉を上げて話をする人が多いですから、下げるとなるとはまるで真逆な事をやらなければならないわけですね。
さらに喉があがると声帯を自然に伸ばすことができなくなってしまうので、苦しくもなります。
なので声楽を勉強する人は、日々喉を下げるための訓練をしなければなりません。
では喉を下げるには具体的にどうしたらよいのか見ていきましょう!

いよいよ本題だな!待ってたぜ!
喉を下げるにはどうすれば良いの?
喉は舌と密接な関係にある。
実際に自分の舌を出したり引っ込めたりしてみればわかると思いますが、舌を思いっきり口から出すと喉仏が上に上がります。そして逆にひっこめると喉仏は下がりますね。
これが起こるのは我々の喉が舌根とつながっているためです。
この声帯のイメージ画を見てみましょう。

舌根と呼ばれる舌の根っこが喉頭蓋とつながっているのが分かりますね。なので舌を押し下げると簡単に喉も下げることができるんです。
このようにして舌の動きを利用すると簡単に喉の位置を下げることができるので、多くの歌手がこの方法を採用しています。実際に私もドイツに来てから最初の2年間はこの方法ばかり練習していました。Aの母音をうたいながら、ゆっくりリラックスさせながら舌を下ろしていくのです。それによって喉を下げることが可能となります。
私はちょうどその時クロアチア出身の歌手に師事していましたが、スラブ系の歌手はそのようにして喉を下げる傾向が特に強いです。

なるほど!それなら俺にもできそうだぜ!
しかし、この方法は喉を下げる方法としては正しくはありません。

なんだよ!こんだけ説明しておいてだめなのかい?ちょっと頼むよ!
理由は舌が下がる事で結果的に喉のスペースを狭くしてしまうからです。
声の成長には舌との決別が欠かせない!
ちょっとこのYoutubeの映像リンクを見てみましょう。とある女性歌手が歌ったものをMRI録画したものになります。
舌が動くたびに喉の奥のスペースが小さく狭くなることに気が付きませんか?特にAの母音の時にそうなりやすいですね。また後半からは舌を前歯の裏側に当てて、口笛のような倍音をつくり、喉を締めて音を出すモンゴルのホーミーみたいな歌い方をしていますね。その時を良く見てみると、舌根が下がって、さらに喉が押しあがっており、喉の奥のスペースがかなり狭くなっていることに気が付くと思います。

本当ですね。私も喉が良く上がった時はこんな風に狭くなっているんですね。
この歌手はオペラ歌手ではないので、この歌い方でも問題はありませんが、オペラ歌手になるには、これでは足りません。ちょくちょく変化し、狭くなってしまうこのスペースをできるだけ、広くキープできるようにしていかなければならないのです。
具体的に言うと、舌を少し前に出すことで、舌の後ろ山のようにならないようにし、さらに喉を下げることで、そのスペースを最大限に利用する事が可能になります。
そしてこれが豊かな響きを作り出すのです。
しかし先にも言いましたが、舌を下げて喉を下げてしまうと、決して広いスペースを得ることはできませんので、我々は舌を下げずに喉を下ろす方法を学ばなければならないのです!

今度こそ本題だな!期待を裏切らないでくれよ!
首の周りの筋肉を使って喉を下げる
では舌を使わずにどうやって喉を下げたら良いのでしょうか?答えは簡単です。首の筋肉を使います!

ちょっと上の図を見てください。この赤色で記された筋肉は甲状軟骨に直接つながっています。この筋肉を下に引っ張たら喉を下げられそうだと思いませんか?

本当ですわ。でもちょっとこの図だと気味が悪くて引っ張る気にはなれませんわ・・。

そしてさらに外側には甲状軟骨から鎖骨の方につながっている筋肉もあります。これも引っ張ってみたいと思いませんか?

そしてこれらの筋肉の外側にはさらに大きな筋肉があります。
実際にはいくつもの筋肉が複雑に絡み合っていますから、その特定の筋肉だけを意図して動かすことはできませんが、筋肉を上の白い矢印のように下の方に引っ張ると、それと連動して内側の筋肉も下がります。
つまりこれら筋肉を利用する事で、舌の力に頼らずに、喉を下げることが可能となります。これが最も重要なポイントです。
ではいったいどうやって首の筋肉を使うのか、となりますが、思いっきりあくびしてみてください。そうすると首の筋肉が引っ張られますよね。最初は感じにくいかもしれませんが、その筋肉を徐々に鍛えることによって、喉を下げることが可能となるのです。

そういえば、レッスンで歌はあくびのようだって言われた事がありますよ。
首の筋肉を引っ張て歌っている例
パヴァロッティと同年代の名テノール、ボニソッリの歌唱になります。彼は最後にハイC(高いドの音)を出すためだけに、他の人が歌うよりもわざわざ高い調で歌っています。まさにその高音部に注目してください。高音に行くとき、彼が首の筋肉をしっかり引っ張ているのが分るでしょうか。服を着ているので見た目では分かりにくいですが、このようにして首の筋肉をしっかり引っ張って、喉を下げて声帯を伸ばすと、こんな感じの音になります。むりやり押して出した高音とはそのクオリティーが全く違いますのでこれはぜひとも耳で覚えてほしいですね。
今度は見た目で分かりやすいものがないか探してみた結果ソプラノのジェシー・ノーマンの映像にたどり着きました。息を吸った後、それから歌っている時に首の筋肉を引っ張っているのが見えますね。
歌手には首が太い人が多いですが、こうして首の筋肉を使っていくことで、どんどん首が太くなっていくんですね。
おわりに
今回は、首の筋肉を使って喉を下げる方法についての話をしてみました。喉を下げる事は声楽家にとってはオペラに限らず非常に重要な基本テクニックになります。しかし喉を下げようと思って歌うと、どうしても余計な力が入り、舌を使って押し下げてしまいますから、首の筋肉を引っ張ると考えた方が良いかもしれませんね。
それではまた別の話でお会いしましょう!
なるほど!だからレッスンでは喉を下げろって言われるんだな。