オペラ歌手に必要な呼吸法!横隔膜を使った支えについて!【声楽テクニック】

こんにちは。

これまで発声に関して喉を下げる話と頭声についての話をしてきましたが、今回は呼吸と支えについての話をしてみようと思います。

横隔膜と呼吸の仕組みついて簡単に理解する!

声楽を学ぶ人にとってもっとも重要な要素の一つが呼吸ですね。私たちは自分たちが吐く息を使って歌っていますが、この吐く息を自分でコントロールするというのが非常に大事になります。息をコントロールする事で、フレーズに様々な表情を付けることができるからです。

そしてこの息をコントロールするために必要なの筋肉の一つが横隔膜です。横隔膜というのは筋肉で、私達の呼吸に直接関係しています。

上の図にあるように、普段私たちが息を吸う時に横隔膜は下のほうに広がり、息を吐くときに横隔膜は上に上がります。普段は呼吸する時はそんな事は誰も意識することはありませんが、歌うときにはこれをしっかりと意識する必要があります。

ただ横隔膜を意識するとか言われても、いったい何を意識すれば良いのか分かりませんよね。今回はそれを見ていきましょう!

呼吸(支え)はフィジカル!

さて、以前頭声の話をした時に、アクティブとパッシブについての話をしました。(まだそちらを読んでいない人は先にそちらを読むことをお勧めします。)その中で、私たちはパッシブである響きについては考えるべきではなく、もっとアクティブな行為に集中すべきだと書きました。

ヨゼフ

それは覚えているよ!まずは鍛えるべきところ先に鍛えろって話だったね!

そしてそのアクティブな行為の代表的なものの一つがこの横隔膜を使った呼吸(支え)になります。世の中にはヨガの呼吸法とかいろんな呼吸法と呼ばれるものがありますが、私達オペラ歌手にとっての呼吸法というものは、一般の人が想像しているものよりも、はるかにフィジカル(肉体的)なものです。

ヨガのように瞑想して楽な呼吸を探すというのとは全く違います。実際にオペラ歌手がしなければならない呼吸にはある種の肉体的な苦労が伴います。これは決して楽ではないです。それどころか結構しんどいです。

そういう意味でオペラ歌手にとっての呼吸(支え)というものはかなりフィジカルなのです。

呼吸(支え)は歌手にとってのエンジン

実際にどこらヘんがフィジカルなのかはもう少し後で触れるとしますが、私達にとって良い呼吸(支え)というものは歌手にとってのエネルギーの根源となっています。

私たちは呼吸をコントロールする筋肉を鍛えていくことで、このエネルギー源から発せられるパワーの出力をどんどん高めていかなければいけません

私たちが目指すところは、たくさんのエネルギーを発することができる呼吸(支え)を体得する事です。

歌手にとっての良い呼吸というのは、まるでフェラーリやポルシェのエンジンみたいなものです。決して軽自動車であってはなりません。

私たちは、実際にフィジカルなトレーニングをすることで、できるだけ出力の高いエンジンを作り上げなければなりません。

まあエンジンに例えましたが、とにかく私たちは優れた呼吸(支え)というのを一から、フィジカルに作り上げていかなければならないのです。

エリザベス

呼吸っていうものはいかにリラックスするかが大事だと思っていましたが、なんか大分違うみたいですわね。

どのようにしてエネルギーを高めていくのか?

内から外へ、外から内へ!2つの力が必要!

では一体どうすれば、フェラーリのエンジンのような物凄い出力を持った呼吸(支え)を手に入れることができるのでしょうか?実はそれには二つの力が必要となります。一つは体の内側から外側に向かって働きかける力、そしてもう一つが体の外側から内側に向かって働きかける力です。

これはあくまで感覚的なイメージにすぎませんが、この二つの異なる力が反発しあう事でエネルギーが発生します。そしてそこにかかる力が大きければ大きくなるほど、そのエネルギーは大きくなるのです。

私自身は横隔膜の下あたりにエネルギーのコアのようなものを感じています。内側からのエネルギーと外側とのエネルギーが反発しあう事でそのコアがまるでエンジンが動き出すかのように振動し、呼吸のエネルギーとなるのです。

まあこれはあくまで私の感覚的な例えですから、ちょっとわからなくても別に気にする事はありません。

これから細かく見ていきますから、今は二つの力が必要だという所だけ抑えておけば大丈夫です。

内から外へ (横隔膜)

ではもう少し詳しく見ていきましょう。まずは内側から外側への力です。

これは横隔膜を広げる力になります。私たちは深く息を吸うと横隔膜を下に押し下げる事が出来ますね。横隔膜が押し下げられた事で背中(腰の辺り)や脇腹の辺りが少し膨らみます。

私たちは歌うときに、つまり息を吐くときにできるだけこの状態をキープしようとしなければなりません。実際に歌っている時は、キープするだけでなく横隔膜をさらに下へと押し広げるという感覚を持つ事すらあります。しかし物理的には息を吐いている以上横隔膜は少しずつ上に上がっているわけですから、これはあくまで感覚的なものでしょう。

まずはこの横隔膜を広げた状態をできるだけキープしようとする力が内から外への力だと覚えてください。

ちなみに横隔膜の形はこんな形になっています。

先ほど息を深く吸うと背中(腰)の辺りが膨らむと書きましたが、横隔膜は実際に腰の近くまであるのが分かりますね。

ヨゼフ

息を深く吸い込むと確かにお腹と腰回りが膨らむね。これが息を吐いてもすぐにへこまないようにするってことだね。

Kazu

そうですね!最初はその意識で大丈夫です!

外から内へ (腹横筋、腹筋)

では次は外から内への力とはなんなのか見ていきましょう。これはいわゆる腹筋を使った力になります。私達の呼吸には腹横筋という筋肉が深くかかわっているとされていますが、下の図が腹横筋になります。

腹横筋の下の方には二つ切れ目がありますが、実はそこからシックスパックとして知られる腹直筋が出ています。他にもいろんな筋肉がありますが、私たちの腹筋はいくつもの層になって複雑に絡み合っているわけです。

腹直筋と腹斜筋

私たちは歌う時にこの腹筋を外側から内側へ(下から横隔膜の方向へ)と押し上げるようにする力も使います。これが外側から内側への力です。外側から内側への力によって内部への圧力を高めるのです。

ただ私たちの腹部はかなり広いですよね。実際にどの部分に意識を集中させるのかは、人によっていろいろな意見があります。

私が歌うときに常に意識している場所は、横隔膜のすぐ下にある①のポイントです。ここから内側への圧力を高めていきます(実際には横隔膜が押し広がっているために決して凹むことはなく、むしろ押し出される感じになります)。それに加えて②の部分を少し押し上げるような感じも意識します。

これらの部分が外側から内側へと働きかけることによって呼吸をサポートする事が出来るわけです。

便宜的に①とか②とか書きましたが、これらの動きは決して別々なものではなくて、あくまで全体的な動きである事を忘れないでください。

ヨゼフ

これがいわゆるお腹を使って歌うっていう事だね。なんとなくイメージできるよ。

歌う時の姿勢とトレーニング

姿勢

二つの力を使う事が大事だという所まで触れましたが、ではどのようにすることでこれらの二つの力を効果的に使う事ができるのか、そして鍛えることができるのかを見ていきましょう。

まず効果的にこの二つの力を使うためには、良い姿勢で歌う事が必要となります。

まずはできるだけ真っ直ぐ立つことを心掛けます。この時背中は決して反らないように注意しなければなりません。逆に腰のあたりの重心をすこし低くし腰の部分が外側に広がる感覚を持つようにします。深く呼吸すると横隔膜が下がって、この部分が実際に外に広がるのでこれは割と大事な部分です。こうした感覚は座って歌う場合でも同様です。

次に大事なのが、胸はあくまでリラックスした状態を保つという点です。息を沢山肺に入れようとして胸を高くしてしまうと背中が反ってしまいます。それと同時にお腹が出た状態となりますね。これでは非常に無防備な状態になってしまいますので、あまり望ましくはありません。

私自身は、できるだけ真っ直ぐ立つように意識しながらも、それと同時にボクシングやフェンシングのような格闘技のファイティングポーズをイメージする事が多いです。ファイティングポーズでは背中が反って、無防備にお腹や胸が外にさらけ出されるという事は決してありませんね。ここが重要なポイントです。

フェンシング:決して体の前面が無防備な状態になる事はない。

多くのスポーツにおいてファイティングポーズというのは、次にやってくる一瞬の動きに備えて万全の状態をキープしています。この時背中はほんの少しだけ丸みを帯び、腹部には常に適度な緊張感があります。外側からのエネルギーを内側にため込むようにして、チャンスが来たらそのエネルギーを一気に外に放出できるようにしているわけです

もちろんこれから戦いを始めるわけではありませんが、私はできるだけ真っ直ぐ立つようにしながらも常にこのような状態を心がけています。

ヨゼフ

胸は上げろって教わったけれど、それとは逆だね。胸が上がると苦しくなるから変だなあと思ていたんだよ。

トレ―ニング

歌うときに必要な筋肉は何度も歌う事で付けていくことが大事になりますが、その手助けとなるトレーニングもありますのでそのうちのいくつか紹介しましょう。

深く息を吸って、ゆっくりと息を吐く練習

まず内側から外側への力を高めるために有効なトレーニングを紹介しましょう。その一つはゆっくりと深く息を吸ったら、唇を閉じて、その間からゆっくりと息を吐く練習です。だいたい30秒から60秒ぐらいで息が無くなると思いますが、息が無くなりそうになったら、そのまま萎むのではなくクレッシェンドして息を吐ききってしまいます。

この練習をするときに腰の周りに手をあてて、その抵抗を感じてみるのも良いでしょう。唇を閉じていることですぐには息を吐くことが出来ませので、内部の圧力が高まてくるのを感じることができると思います。この練習を繰り返すことによって、呼吸を鍛えることが出来ます。この練習は声をまったく使う必要がないので、いつでもどこでもできますね。

エリザベス

筋トレが苦手なわたくしにもこれならできそうですわ。

トレーニングチューブを使ったトレーニング

主に細い筋肉を鍛えるために多くのスポーツで取り入れられているトレーニングチューブですが、このチューブを使用する事で呼吸に必要な筋肉である腹横筋などのインナーマッスルを鍛えることが出来ます。

使い方は両足でこのチューブの中央を部分を踏み、息を吐きながら自分の体の前の方に向かってこのゴムチューブを引っ張るだけです。

このトレーニングは支えを鍛えるのに非常に効果的です。慣れてきたら、歌いながらやるとより効果的ですね。

エリザベス

ちょっときつそうになってきましたわね・・・。

重りを使ったトレーニング

トレーニング用のゴムチューブでも十分効果が得られますが、私は良くダンベルを使ってトレーニングをしています。ダンベルを両手に持って腕を伸ばした状態をキープするだけです(前ならえのポーズ)。これによって腹筋に適度な緊張感が加わりますが、それと同時に背筋と腰の周りの筋肉にも適度な緊張感が加わります。

私は良くこの状態のまま歌います。このダンベルトレーニングの目的はあくまで、ダンベルを持つことによって背中、腰、お腹周りの筋肉を意識しやすくする事です。適度な重りを持っただけでこれらの筋肉は適度な緊張状態にありますので、呼吸の時にそれらの筋肉を意識しやすくなります。

私は現在片方4㎏のダンベルを使用していますが、重すぎると怪我をする恐れもありますので、必ず自分にあった重さを選びましょう。

ヨゼフ

ここまでくると本当にフィジカルな感じがするね。腕も引きしまって一石二鳥だな!

バランスクッションと体幹

最近は体幹トレーニングという言葉も大分浸透していますが、体幹トレーニングではインナーマッスルである腹横筋を鍛えることができます。腹横筋は呼吸に大きく関係した筋肉ですので、ぜひとも鍛えたい所です。体幹を鍛える方法はたくさんありますが、私は良くこのバランスクッションを用います。私が持っているのは80㎝ぐらいの大きなものですが、この上でバランスを崩さないように立って歌うだけです。そんなに頻繁にはやりませんが、時々バランスをチェックするために使っています。体の余計な部分に力が入っているとうまくバランスを取る事が出来ませんので、自分で簡単にバランスをチェックすることが出来ます。

もちろん歌わないでただこのクッションの上に立っているだけでも体幹が鍛えられます!

エリザベス

ちょっと質問なのですが、このように筋トレをすれば本当に歌はうまくなるのかしら?

Kazu

単なる筋トレしただけでは歌はうまくなりません。しかし必要な筋肉がないと歌うために必要なエネルギーを得ることが出来ませんから、今回紹介したようなトレーニングをして必要な筋肉も鍛えていく必要があります。

おわりに

今回は横隔膜を使った支え(呼吸)についての話をしてみました。私達歌手にとっての支えというのはとにかくフィジカルなものです。これをとにかく鍛えて安定した呼吸を手に入れる必要があります。

そして、大事なのはこうしたトレーニングを繰り返することで鍛えられた呼吸(支え)がどのように自分の声に影響を与えるのか、その関係性を掴むことです。

歌手は、体のどの部分の筋肉を意識して使ったら、声にどのような変化が現れたのかという事を経験的に掴んでいかなければならないというわけです。これを一人で行うのは難しいですから、レッスンに通って先生に実際に出た声を聞いてもらいながら一緒にトレーニングできるのが理想的ですね。

呼吸(支え)に必要な筋肉をつけるのには長い時間が必要となりますし、決して楽な道のりではありません。しかし今回紹介したようなトレーニングを毎日続けていくことで確実に鍛えることが出来ます。何度も言いますが私たちがまずやらなければならない事はアクティブな行為になります!!まずは頑張って体を鍛えましょう!


↓この記事が役に立ったら応援クリックよろしくお願いします!↓

にほんブログ村 クラシックブログ オペラへ