要注意!重い役を歌ってはいけない理由!ドラマチックな役とは?【オペラ・声楽】

みなさん、こんにちは!

車田和寿です。

今日は重い役を歌ってはいけない理由について話します。

声楽をやっている人は何度か耳にした事もあるとは思うんですが、自分の声よりも重い役を歌うと声を壊す、というようなことは結構良く言われています。

その代表的なのが、テノールの「オテロ」役ですね。オテロはテノールの中でも最もドラマチック、つまり重い役と言う事になりますが、これまでに多くのテノールがこの役に挑戦しては、その負担に耐え切れずに声を壊してしまったという風に言われています。

いったいどうしてこういう事がおこるのでしょうか?

今日はドラマチックな役とは何なのか?というところから話をして、どうしてそれを歌う時に注意をしなければならないのか、解説します。

重い声とは?

まずドラマチックな声と重い声というのはここではだいたい同じ意味です。

これまでにも声種の種類を紹介する動画でドラマチックテノールとかドラマチックバリトンというものを紹介してきました。

これは英雄などのキャラクターを演じるに相応しい、力強くて男らしい声質などと説明しましたが、軽い声とはどこが違うのかもう少し具体的に見ていきましょう。

まず重い声、ドラマチックな声というのは、大きな声です。

軽い役と重い役の一番の違いは、そのオーケストラにあります。モーツァルトのオーケストラは35人程度ですから、音量もたいしたことありません。

一方ヴァーグナーのオーケストラはその人数が100人を超えますから、大音量です。

なのでヴァーグナーのオペラではオーケストラをバックに歌ってもオーケストラを通り抜けるような声が必要になります。

その代表的なのがこの間紹介したヘルデンテノールです。

ヘルデンテノールに限らず、ヴァーグナーに登場する役のほとんどがドラマチックな役柄になります。ニーベルングの指輪に登場するブリュンヒルデもドラマチックソプラノの代表的な役柄ですね。

まず、軽い声とか重い声という事を考えるときは、かならずその伴奏のオーケストラの大きさを考えなければならないです。

大きなオーケストラにも負けない大きな声が重い声と言う事になります。もちろんそれに加えて太くて暗くて深みのある音色という部分も大事な要素です。

たまにものすごく明るい声でも声だけは大きい歌手もいますが、そういう場合はいくら大きなオーケストラに負けないような声でもやはり重い声、ドラマチックな声とは言いません。

しかし大抵は声と言うものは、太くて深い声の方が音量面でも大きくなります。

バリトンとテノールが2重唱の中でGの音を同時に伸ばすことが良くありますが、この音域だったらテノールよりも太いバリトンの声の方が声量面でも勝っています。なので、テノールの声はだいたい消されます。

同じようにバスとテノールが中間音を一緒に歌ったら、テノールの声はバスにかき消されてしまいます。

バスというのはただ低い声がでるだけではないんです。中間音でもオーケストラに負けないような声量をもっていないと本物のバスにはなれないんです。まあその辺の詳しい話はまた別な機会にして、本題に戻りましょう

重い役を歌うという事は?

なので重い役を歌うという事は常に、大きなオーケストラを相手に歌うという事を意味します。

常にある程度の声量で歌わなければならないので、これは当然体と声に負担がかかります。

そして軽い声の人が重い役を歌うと、ほぼ例外なく無理をしてしまいます。

オーケストラと歌ってみたことがある人は分かるかもしれませんが、一緒に歌うと自分の声が一人で歌っている時みたいには聞こえなくなるんです。

声楽家は、声がどのように響いているかを自分で聴くことはできません。なので感覚的に判断しています。しかしオーケストラにかき消されて自分の声が聞こえにくくなると、その感覚がおかしくなります。

普段と同じように聴こえないと、おかしいと思ってしまい、ここでだいたい無理してしまうんです。

そして次の日に歌ってみようと思うと声がおかしい、疲れてあんまり出ない・・という事に気が付くんです。

このようになってもきちんとその時点で声を休めれば、声はすぐに元に戻ります。しかし重い役を歌うと言う事は、その役を8週間に渡って、毎日歌い続ける事を意味します。8週間も無理を続ければ、やっぱりどうしても負担が大きくなり声がおかしくなってしまう可能性が高くなるんです。

でも練習のほとんどはオーケストラじゃなくてピアノですよね。と思う人もいるかもしれませんが、重い役を必要とするオペラのほとんどはすべての役でドラマチックな声を必要としています。だいたいドラマチックテノールが出るオペラではバリトンとかソプラノもドラマチックな役柄になるんです。

それは当然相手の声もでかい、という事を意味します。なので一緒に2重唱を歌えば、やっぱり相手に負けまいとしてついつい無理をしてしまいがちなんです。そりゃあ相手に自分の声がかき消されて嬉しい歌手はいませんから、それこそそうならないように必死になってしまうわけです。

だから重い役を歌うと言う事には大きなリスクが付きまとうのです。

プッチーニの落とし穴

なので、重い役を歌う時には注意が必要です。ヴァーグナーやヴェルディの後期のオペラともなれば、みんな重い役なので、注意が必要だという考え方も以前よりは広まってきたかもしれませんが、案外軽視されているのがプッチーニです。

プッチーニのオペラのアリアは音大生でも歌ったりする事がよくありますが、プッチーニを歌うリスクは決して軽くみてはいけません。なぜならプッチーニのオペラにおいては、オーケストラがほとんど歌と同じメロディーを演奏しているからです。

ヴェルディは声の事が良く分かっていましたから、後期のオペラを除いては伴奏というのは常にp(ピアノ)に抑えられています。ほとんどのアリアの伴奏がズンチャッチャです。メロディーを歌うのは基本歌手だけですから、決してオーケストラとぶつかる事はありません。

しかしプッチーニは30人の弦楽器が常に同じメロディーを演奏しています。これは歌手にとってはものすごい負担です。正直なところ、音大生のレベルではオーケストラと歌ったらだいたいかき消されてしまいます。

ということは、本当はその曲を歌うのはまだ早いという事なんです。まだ歌える程声が成熟していないと言う事になります。

だけれど、結構それを無視してみんな歌っちゃうんです。ピアノでしか歌っていないとこういう事って気が付きづらいんですが、ピアノ伴奏で歌えるから歌えたと勘違いしてしまう事が一番よくないんですよ。

プッチーニを歌えるようになるのは、声がある程度成熟してからです。軽い声の人はとにかくプッチーニにはあまり手を出さないようにしましょう。

人手不足と人気曲

しかし軽い声の人が、重い役を歌わせられてしまう場面というのは物凄く多いです。その理由の一つは、重い声の歌手というのが少ないからです。

軽い声の人は割と沢山います。なので、軽い声の人たちにも、オファーが沢山来ます。

それからプッチーニの「星は光りぬ」とか「誰も寝てはならぬ」、レオンカヴァッロの「衣装をつけろ」というアリアは観客にも人気があります。なので、主催者も歌ってほしいです。ガラコンサートではテノールはこの3つのどれかを歌ってほしい、と言われる可能性が高いです。

だけどこの3曲は重い声の歌手が歌う歌です。コンサートだからと言って、このような曲を歌い出すと、やっぱり少しずつ無理が重なってしまし、いつかバランスを崩す事につながりかねません。

かつて日本には山路義久というテノールがいました。彼はものすごく軽い声でしたが、マスカーニのイリスなどという比較的重い役も歌っていました。残念ながら若くして亡くなってしまったんですが、ちょっと有名になったり人気がでるとちょっとぐらい重い役でも歌ってくれというオファーがやってくるんです。

なので、軽い声の人はよほど自分の声の事をしっかりと理解し、どこでノーと言うかと言う事も学んでいかないといけないんです。

そのために大事なのが、まずは自分の声を知る事。そしてどの役がどのような声質で歌われなければならないのかを、総合的に勉強する事です。総合的というのは、自分がバリトンだからバリトンだけ知っていれば良いという事ではありません。全部の声種に対してそのような理解を持つことが大事なんです。オペラというのは必ず相手役がいますから、自分以外の役の声質がどのようなものかを理解するのも大事なんです。

このブログには、声種の解説記事がありますので、ぜひそちらも見て勉強してください。


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