みなさん、こんにちは。
今回はヴァーグナーの最高傑作として名高いオペラ!「ローエングリン」の魅力と見どころを分かりやすく紹介します!
もくじ
ローエングリンとは?
「ローエングリン」はリヒャルト・ヴァーグナーの代表的なオペラです。ヴァーグナーの後期作品は日本では楽劇と呼ばれる事もありますが、それよりも前に作曲されたこの作品はロマンチック・オペラとも呼ばれており、旋律などイタリアオペラの影響も沢山受けています。
ローエングリンというのは伝説上の騎士であり、アーサー王伝説や、ケルト神話に登場する騎士がモデルとなっています。このモデルを題材に、中世では、ヴォルフラム・フォン・エッシェンバッハが「パルシファル」の中でこのローエングリンを描いたり、またはグリム兄弟の童話の中でも、ローエングリンにまつわる伝説がいくつも伝えられています。
ヴァーグナーはそうした伝説物語から着想を得て自らこのオペラのために台本を書きました。
ヴァーグナーのオペラはどれもかなり長いですが、その一つの原因が台本を自分で作っていたためだと冗談交じりに語られる事も多いです。台本作成にも相当な思い入れがあるために、削る事ができなくなってしまったというわけです。
そんなわけでローエングリンの演奏時間も合計で約3時間30分(全3幕)とかなりの大作となっています。
通常の公演ではそれぞれの幕間休憩を挟みます。ヴァーグナーで有名なバイロイト音楽祭では休憩を1時間とりますから、それぞれ1時間の休憩を挟むと全部で5時間半にもなってしまいますね。
さて、ローエングリンは1850年にピアニストとしても有名だったフランツ・リストの指揮でヴァイマール宮廷劇場で初演されました。
ローエングリンに限らず、ヴァーグナーのオペラに共通する魅力の一つは、そのオーケストラの重厚な響きと美しさです。同じ時代に活躍したヴェルディもその晩年においては独自のオーケストレーションを確立しましたが、ヴェルディのオペラにおいては、なによりも歌の旋律が物語を牽引していきます。一方でヴァーグナーの場合は、オーケストラの和音進行が物語をすすめる上でのエンジンのような役割を果たしています。
ヴァーグナーの歌の旋律がイタリアのオペラと比べていまいち良く分かりにくいと感じるのはこれが一つの原因です。
しかしオーケストラに耳を澄ませて音楽を聴くと本当に素晴らしい事に気が付きます。一方でこうしたオーケストラの重厚な響きは歌手に大きくドラマチックな声を要求するようになってしまいました。
大きな声でないと声が客席まで聴こえないのです!そのためヴァーグナーが自分のオペラを上演するために建設に携わったバイロイト祝祭劇場では、オーケストラピットに蓋がしてあるような状態になっています(舞台下に向かって下がっている)。これはオーケストラの音量を抑え、歌手の声や歌詞が聞こえやすくるためです。でも通常のオペラハウスではオーケストラピットの上には蓋がありませんので、オーケストラの音が大きく歌手の負担は大変なものです!
特に主役のローエングリンを歌うテノールにはヘルデンテノールという特別に重く太くて、男性的な声が要求されています。
それも「ローエングリン」の見どころ魅力の一つですね。
さて、前置きはこの辺までにしておき、まずはこの物語がどのようなものなのか、その登場人物とストーリーから見ていきましょう!
ローエングリンの登場人物とあらすじ
「ローエングリン」の登場人物
- ハインリヒ王:シリアスバス/大役
- ローエングリン(聖杯守護の騎士):ヘルデンテノール/大役
- エルザ (ブラバント公の娘):スピントソプラノ/大役
- テルラムント伯フリードリヒ:ドラマチックバリトン/大役
- オルトルート(フリードリヒの妻):ドラマチックメゾソプラノ/大役
- 伝令:ドラマチックバリトン/中役
- ゴットフリート(エルザの弟):黙役
物語の簡単なあらすじ!(10行あらすじ)
- ブラバントのエルザは、テルラムント領のフリードリヒに、自分の弟ゴットフリートを殺した罪で訴えられます。
- 裁判でエルザを擁護する人が一人も現れない中、白鳥に導かれてローエングリンが登場します。
- ローエングリンは神明裁判(決闘)でテルラムント伯に勝利し、これによってエルザの無実が決まります。
- エルザとの結婚を望むローエングリンですが、それに際して、名前、出身地、そしてその素性を問わない事を約束させます。
- テルラムントとその妻オルトルートは復讐を誓い、ローエングリンを魔法使いの罪で訴える計画を立てます。
- オルトルートは、エルザに取り入り、ローエングリンの出生の秘密に関する疑念を植え付けます。
- ローエングリンとエルザは結婚しますが、エルザはその場で禁断の3つの質問をしてしまいます。またローエングリンは、その場に侵入してきたテルラムントを殺してしまいます。
- ローエングリンは王と民衆の前で自分がグラールの力によって遣わされた騎士ローエングリンであることを明かします。
- ローエングリンをグラールの下へと連れ戻すためにやってきた白鳥は、行方不明になっていたエルザの弟、ゴットフリートの姿に戻ります。ゴットフリートはオルトルートの魔法にかけられていたのでした。
- ローエングリンが去った後で、エルザも心的負担により死んでしまいます。
グラールとは聖杯を意味します。
ローエングリンは遠い国にある、モンサルヴァートというお城からやってきます。その神殿の中にはグラール(聖杯)がまつられており、その騎士たちはグラールによって特別な力を得ています。
もう少し詳しいあらすじを読みたい方は以下の詳しいバージョンをご覧ください!
それではローエングリンのあらすじをもう少し詳しく見ていきましょう。
ドイツの王、ハインリヒが東から侵攻するフン族の脅威への対抗を呼びかけるために、ブラバントの地へとやって来ます。
その場において、テルラムント伯が幼きブラバント公であるゴットフリートがその姉であるエルザに殺された、という証言をしエルザを訴えます。幼きブラバント公のゴットフリートはその父ブラバント公の死後行方不明となっていたのです。テルラムント伯は、この殺人の動機がブラバント公としての力をエルザが自分の物とするためだったと主張します。
しかしこの殺人を証明する証拠がなかったために、ハインリヒ王は神明裁判によって判決を下す事にします。神の裁きの下でテルラムント伯とエルザを守るための騎士が決闘をする事となったのです。
しかし誰もエルザを守るための役割を引き受ける人は出てきません。すると突然白鳥に率いられた小舟が現れます。そこに乗っていた騎士(ローエングリン)はエルザの夫となり神明裁判の決闘に臨むつもりであることを明かします。しかしその条件として彼の名前と出身地、そして素性を決して質問しない事を要求します。
エルザはこの無名の騎士を心から信じ、その役割を彼に託します。その結果ローエングリンは決闘でテルラムント伯に勝利します。ローエングリンはテルラムント伯を殺さず、彼に慈悲の心をみせ命を助けます。
ローエングリンはエルザと婚約すると同時に、フン族との争いにそなえて国の軍を率いる約束をします。
裁判に敗れたテルラムント伯の妻、オルトルートはかつてブラバント国を治めていた侯爵の子孫ですが、彼女はキリスト教を忌み嫌っていました。実はテルラムント伯がエルザを訴えたのは、このオルトルートの策略によるものでした。オルトルートはエルザを陥れる事でテルラムント伯にブラバント国を引き継がせ、自分の血が再びこの地を統治する事を企んでいたのです。
決闘に敗れたテルラムントですが、オルトルートは諦めません。オルトルートはエルザに近づき、名前も素性も明かすことができないローエングリンは、本当は貴族に相応しい人物ではないのではないか、という疑念を植え付けようとします。
それと同時にテルラムント伯にも、ローエングリンが神明裁判に勝てたのは、実は彼が魔法の力を持っているためだ、つまり神明裁判は不正だったという考えを植え付けるのです。
このようにしてエルザの婚礼の場に現れたテルラムント伯は、その場で神明裁判の無効を訴え、さらにローエングリンに素性を皆の前で明かすようにと詰め寄ります。
辺りは混乱に陥りますが、ローエングリンが王の質問に対しても答える必要はない事、そしてエルザが質問した場合のみ自分はそれに答えなければならない事を明かします。
この混乱に乗じて、オルトルートとテルラムントはもう一度エルザにローエングリンの素性が怪しいという疑念の心を植え付けます。
ローエングリンとエルザの結婚式(結婚行進曲)が行われます。その夜、二人は初めて二人きりとなります。二人はここで愛を語り合いますが、エルザの心のなかに、ローエングリンの名前や素性を知りたいという思いが募ります。それと同時にオルトルートに植え付けられた疑念が次第に大きくなり、ついにローエングリンにその名と素性を訪ねる質問をしてしまうのです。
ちょうどその質問をした頃、テルラムント伯がローエングリンを襲いに寝室に入ってきます。しかしエルザから素早く剣を受け取ったローエングリンの前にテルラムントは敗れ絶命します。
ローエングリンはこの殺人の正当性をハインリヒ王と民衆の前で説明する必要がある事から、エルザの質問にもその場で答える事を告げます。
翌朝ハインリヒ王と民衆の前に現れたローエングリンは、テルラムント伯を殺した事を弁明し、さらに自分がフン族との争いを率いる事が出来なくなった事、この地を去らなければならなくなった事を告げます。そしてその理由がエルザが約束を破った事であることを説明し、ついに皆の前で自分がグラール(聖杯)に使える騎士である事を明かします(グラール語り)。
その場を見ていたオルトルートはついに自分の復讐がかなったと歓喜しますが、そこに白鳥に率いられて小舟が到着します。オルトルートの様子に気が付いたローエングリンが白鳥の鎖を取ると、白鳥は行方不明だったブラバント公ゴットフリートの姿となって現れます。ゴットフリートの姿を見たオルトルートはその場で崩れ落ちます。
ローエングリンは鳩に率いられてこの地を去りますが、それを見ていたエルザは心痛のあまり息絶えます。
オペラ!ローエングリンの聴きどころを紹介!モチーフ編!
ヴァーグナーのオペラは物凄く長いですが、実際に聴いていると意外と聴きやすい事に気が付きます。それはライトモチーフといって、決まった登場人物が出てくると決まったメロディーが繰り返し出てくるためです。
ローエングリンではまだヴァーグナーの後期のオペラであるトリスタンとイゾルデやニーベルングのオペラのようなライトモチーフは確立されていませんが、すでにその誕生を感じさせる部分がいくつも出てきます。その旋律を抑える事で長いオペラもぐっと楽しみやすくなりますからローエングリンでもまずはそのモチーフをいくつか抑えてみましょう!
聖杯モチーフ
ローエングリンの冒頭から何度も繰り返し登場するのがこの聖杯モチーフです。これはローエングリンの素性に関係するモチーフとなっており、3幕でローエングリンが皆の前でその素性を明かす場面でもこの音楽が使われています。これがこのオペラのもっとも重要な音楽の一つになりますから、ぜひとも覚えておきたい旋律です。
この旋律が聞こえてきたら、ああ、今ローエングリンの秘密にせまる事が起こっているのかな?という感じでオペラを追っていくことが簡単になります!
禁断の質問モチーフ
聖杯モチーフと同じぐらい大事なのがこの禁断の質問モチーフになります。一幕の冒頭でローエングリンが、「私の出身、名前、素性に関しては決して質問をしてはならない」と質問する場面があります。
結局エルザは疑念と誘惑に勝てずに、この約束を破って質問してしまいますが、その場面でも同じメロディーがローエングリンによって歌われます。
ローエングリンモチーフ
ローエングリンのモチーフです。このモチーフはローエングリンが登場する時などに出てきます。
オルトルートモチーフ
オルトルートにもモチーフがあります。この怪しい旋律が聞こえてきたら、オルトルートの出番!
ハインリヒ王モチーフ
そしてこちらはハインリヒ王のモチーフ。王様が出てくるときはいつもこのファンファーレです。
その他の聴きどころ
グラール語り:3幕(In fernem Land)
このローエングリンのハイライトとなるのが、ローエングリンが素性を明かす場面(グラール語り)になります。ローエングリンの序曲(Vorspiel)で鳴り響いた聖杯のモチーフ同じメロディーが、ここで”In fernem Land(遠き国から)”とローエングリンによって再び歌われます。
そこでは彼が遠い国にあるモンサルヴァートと呼ばれるお城からやってきた事、そしてそのお城の神殿内にはグラールと呼ばれる聖杯が祀られてある事、自分がその国の王冠を被るパルシファルの息子であり、聖杯の力を授かった騎士である事、そしてローエングリンという名であることが明かされます。
聖杯のモチーフによってこのグラール語りが終わった後でローエングリンのモチーフがこれを引き継ぎます。これは全曲を通して最も感動的な場面の一つです。
ヘルデンテノールであるローエングリンですが、ここではヘルデンテノール特有のドラマチックさではなくて、抒情性が求められるので腕の見せ所となっています。
20世紀を代表するヘルデン・テノール、ラウリッツ・メルヒオールの歌唱で聴いてみましょう。この映像はオペラの一場面でなく、テレビ用に録画されたものになりますが、これぞヘルデン・テノールの響きです。
ローエングリンとエルザの2重唱:3幕
ローエングリンの面白さの一つには心理的な駆け引きがあります。この役割を担うのがエルザです。エルザはオルトルートによってローエングリンに対する疑念を植え付けられてしまいます。
その点ではエルザとオルトルートの駆け引きもなかなか面白いですが、やはりこの疑念に打ち勝つことができずに、ローエングリンに禁断の質問をしてしまうこの2重唱はオペラの中でもハイライトの一つです。
この2重唱では最初はローエングリンとエルザが互いに愛を確かめ合います。しかし愛を確かめ合うほど、エルザには夫の名前や素性を知りたいという思いが強くなっていきます。
さらにはローエングリンがいつか自分を捨て去ってしまうのではないかという妄想とそれによる恐怖心にとらわれてしまいます。この場面でのエルザの音楽にはぜひ注目してくださいね!。
そして、最後にはその疑念と欲求に打ち勝つことができずに、とうとう禁断の質問してしまうのです。
ローエングリンは何とか質問を思いとどまらせようとしますが、その場面では再び“禁断の質問モチーフ”も登場します。しかしそれもエルザの質問を止めることはできませんでした・・・。
ローエングリンとエルザは出会ったその日に結婚して、ようやく二人になったばかりです。なのにエルザにはたった数時間しか約束を守る事ができなかったのは非常に残念ですね・・・。愛とはいったいなんだったのか考えさせられる所でありますが、それ以上にオルトルートの怪しい力(エルザに疑念を植えこんだ)が強かったという事でしょうか。まあオペラは一晩で終わりにしなければならないので、この辺はしょうがないですね。
エルザの大聖堂への行列、第3幕の前奏曲、結婚行進曲
ローエングリンの中には単独で演奏される曲がいくつかありますが、その中でも代表的なのがエルザの大聖堂への行列、そして第3幕の前奏曲、結婚行進曲になります。ローエングリンはとにかく長いオペラですから、このような単独で演奏される曲を抑えておくと鑑賞しやすいかもしれません。
第三幕は前奏曲に始まり、結婚行進曲、そしてエルザとローエングリンの2重唱と非常に見どころが多いですね。
エルザの大聖堂への行列
ローエングリンの第2幕で演奏されるこの曲は非常に美しい曲ですが、フランツ・リストがピアノ用に編曲した事でも有名ですね。日本では吹奏楽用に編曲されたものが、高校生の吹奏楽部などで良く演奏されています。
第3幕の前奏曲
第3幕の前奏曲も単独で演奏される曲となっています。私も中学生の時に吹奏楽でこの曲の一部を演奏しましたが、ひろく広まっている曲です。
結婚行進曲
この曲はむしろローエングリンよりも有名になってしまったぐらいで、ヴァーグナーやローエングリンを知らなくてもこの曲を知っている人は沢山いるでしょう。
おわりに
今回はヴァーグナーの最高傑作「ローエングリン」を紹介しました。
これ以外にもやはりオルトルートやテルラムント伯の心理描写に注目するとオペラがぐんと面白くなりますが、とにかく長いですから、まずは今回紹介したようなモチーフ、それから有名な曲を抑えておくと全曲を鑑賞しやすくなると思います。
その後でぜひとも、今回紹介したエルザとローエングリンの2重唱のところで見られる心理駆け引きとその音楽を堪能してみてください!
※参考文献:ニューグローブ世界音楽大辞典、Handbuch der Oper(Bärenreiter)