みなさん、こんにちは。
これまでテノール、バリトン、バスの声種の違いについて説明してきましたが、まだ女声が残っていましたね。
今回はソプラノの声種の違いを取り上げます!
もくじ
ソプラノの声の特徴と声種の違い
毎回言っている事ではありますが、私たちの声は、その声の高さに応じてだいたいソプラノ、メゾソプラノ、アルト、テノール、バリトン、バスと6種類に分類する事が出来ます。
ソプラノはその中でも最も高い音域を担当するパートになります。
オペラにおいてはその音域の高さから、若い女性を演じる事が圧倒的に多いです。
オペラの世界というのは割と偏見でできていて、声が高ければ若い役、そして低ければ年を取った役柄となる事が多いです。
まあそんなわけで若い女性を演じる事が圧倒的に多いソプラノですが、若いと言ってもそのキャラクターは実に様々です。
例えば代表的なのがいわゆるヒロインと呼ばれるお姫様や伯爵夫人ですね。それとは対照的にメイドを演じる事も沢山あります。オペラの中には他にも様々なキャラクターが登場しますが、それらのキャラクターに応じて、ソプラノの声種も細かく分けられています。
ざっとその分類を上げてみますと、まずはスブレット、リリックコロラトゥーラソプラノ、ドラマチックコロラトゥーラソプラノ、リリックソプラノ、スピントソプラノ、ドラマチックソプラノの6種類に分類することができます
6種類と言う事で、テノールやバリトンよりもさらに細かく分けられていますが、男声の場合と比べると、ソプラノの場合の方がその境界線はより曖昧になっています。つまりリリックソプラノがスピントの役を歌ったり、リリックコロラトゥーラの役を歌ったりする事は日常茶飯事です。
人間の声というのは本来多様なもので、決して6つのカテゴリーにきれいに分類できる類のものではないという事は一応頭の片隅に入れておいてください。
ちなみにそれぞれの声種の主な役柄の例に関してはドイツでスタンダードとなっているクロイバー著「オペラ・ハンドブック」(オペラ辞典みたいなもの)を参照していますが、個人的にはこの役は、こっちに分類したほうがいいんじゃないのと思う部分も結構あります。それも境界線の曖昧さが原因ですね。
では早速見ていきましょう。
スブレット
スブレット(Soubrette)というのは元々フランス語で女性の召使を表します。まあいわゆるメイドの事ですね。
スブレットの声質的な特徴としては、ソプラノの中でも最も細く軽く、動きが良いという点が挙げられますが、それに加えて特にコメディにおける演技力が必要とされています。
コロラトゥーラソプラノとも非常に似た声質を持っていますが、コロラトゥーラソプラノでは非常に高い音(ファの音 f’’’)が要求されるのに対して、スブレットはド( c’’’)までとそこまで高い音は必要とされません。しかし現実的にはこれらの境界線は非常にあいまいで、どちらも歌ってしまう歌手も多いです。
代表的な役柄としてはヨハン・シュトラウスのオペレッタ「こうもり」のアデーレ役が挙げられますが、こちらはまさに女中役の典型です。アデーレは軽い声を活かした歌以外にもセリフもたくさんありますから、その中で演技力も要求されます。
その他にはモーツァルトの「魔的」のパパゲーナや「ドン・ジョヴァンニ」のヅェルリーナ等が挙げられます。
「こうもり」の中で女中のアデーレが淑女に仮装して歌うアリア「Mein Herr Marquis」の映像をご覧ください!演じているのはドイツ人のソプラノ、ヒルデガルド・ヘイヒェレになります。
女中がレディの恰好をしているなんて面白いですわね。確かに演技しがいがありそうですわ。
- モーツァルト「フィガロの結婚」:バルバリーナ
- モーツァルト「魔笛」:パパゲーナ
- モーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」:ヅェルリーナ
- ドニゼッティ「愛の妙薬」:ジャンネッタ
- ロルツィング「武器鍛冶屋」:マリー
- ロルツィング「ヴィルトシュッツ」:グレートヒェン
- ヨハン・シュトラウス「こうもり」:アデーレ
リリックコロラトゥーラソプラノ
ソプラノの中でも細かい音(コロラトゥーラ)を沢山歌わなければいけない役が沢山出てきますが、それらを歌うソプラノをコロラトゥーラソプラノと言います。
コロラトゥーラソプラノはその声質の違いで、リリックコロラトゥーラとドラマチックコロラトゥーラに分けられますが、その中でも非常に軽く、動きが軽やかな声質を持ったソプラノの方をリリックコロラトゥーラソプラノと呼びます。
リリックコロラトゥーラソプラノとスブレットの違いは先にすでに触れましたが、より高音を歌う比重が多くなるのがリリック・コロラトゥーラですね。まさに典型的なコロラトゥーラソプラノという事が出来るでしょう。
キャラクター的にはとにかく女性の中でも特に若い女性を演じる事になります。
代表的な役柄としてはヴェルディ「リゴレット」のジルダ役や、リヒャルト・シュトラウスの「ナクソス島のアリアドネ」のツェルビネッタなどが挙げられますね。
それでは代表的なコロラトゥーラソプラノ、エディタ・グルベローヴァの演じるツェルビネッタアリア“Großmächtige Prinzessin”をぜひお聞きください。
多くの作曲家は歌手の技量を存分に発揮させるために、コロラトゥーラの沢山でてくる曲を作曲していますが、リリックコロラトゥーラソプラノは非常に高い技術を求められます。ツェルビネッタのアリアは数多くあるソプラノのアリアの中でも最も難易度が高いです。
グルベローヴァの歌うツェルビネッタは本当に素晴らしいですわ。こんなに大変な曲なのに、まったく大変さを感じさせませんわね。
- ドニゼッティ「ドン・パスクワーレ」:のリーナ
- ドニゼッティ「愛の妙薬」:アディーナ
- ドニゼッティ「ランメルモールのルチア」:ルチア
- モーツァルト「後宮からの誘拐」:ブロンデ
- モーツァルト「劇場支配人」:ジルヴァークラング/ヘルツ
- プッチーニ「ボエーム」:ムゼッタ
- R.シュトラウス「ナクソス島のアリアドネ」:ツェルビネッタ
- R.シュトラウス「ばらの騎士」:ゾフィー
- ヴェルディ「仮面舞踏会」:オスカル
- ヴェルディ「リゴレット」:ジルダ
ドラマチックコロラトゥーラソプラノ
ドラマチックコロラトゥーラソプラノは、コロラトゥーラソプラノの中でも特にドラマチックな表現が求められるものとなります。
リリックコロラトゥーラと比べて、声質は若干重く、より力強くなります。だからと言って音域が低くなるかと言えば、決してそうではありません。
代表的なのはなんといってもモーツァルトの「魔笛」の夜の女王や、「後宮からの誘拐」のコンスタンツェですね。
実際にはドラマチックコロラトゥーラソプラノというのはそれほど多くなく、ほとんどの場合がリリックコロラトゥーラソプラによって歌われる事が多いです。
特に「魔笛」夜の女王は高い音が要求されますから、高いソプラノの代名詞みたいになっていますが、実は非常に力強い声を要求される役柄なのです。
ドイツ人のソプラノ、エッダ・モーザーが歌う夜の女王のアリアをぜひとも聴いてみてください。このアリアは“復讐”がテーマとなっていますが、高い音だけでなく夜の女王の怒りが前面的に出なければいけません。
エッダ・モーザ―の声質はまさに夜の女王にぴったりですね。
確かに夜の女王は高いソプラノを象徴する曲になっていますが、高いだけではその役柄は表現しきれないという事ですね。エッダ・モーザ―の歌にはものすごく迫力がありますわ。
- ヘンデル「ジュリオ・チェザーレ」:クレオパトラ
- ヘンデル「リナルド」:アルミーダ
- モーツァルト「魔笛」:夜の女王
- モーツァルト「コシ・ファン・トゥッテ」:フィオルディリージ
- モーツァルト「後宮からの誘拐」:コンスタンツェ
- ドニゼッティ「アンナボレーナ」:アンナ・ボレーナ
- ヴェルディ「ルイザミラー」:ルチア
- ヴェルディ「椿姫」:ヴィオレッタ
- ヴェルディ「トロヴァトーレ」:レオノーラ
- ベルク「ルル」:ルル
リリックソプラノ
リリックソプラノはスブレットやリリックコロラトゥーラソプラノと比べると、いくらか重い声質となります。響きがより豊かになった事で、スブレットやリリックコロラトゥーラソプラノと比べるとより落ち着きを持ったキャラクターを演じるのに適した声質になります。
いわゆるお姫様のイメージに最もぴったりな声質で、代表的な役柄としてはモーツァルト「魔笛」のパミーナ(お姫様)や「フィガロの結婚」のスザンナが挙げられますね。
プッチーニのオペラ「ジャンニ・スキッキ」よりラウレッタのアリア“O mio babbino caro”をミレッラ・フレーニの歌唱で聴いてみましょう。
- ベートーベン「フィデリオ」:マルツェッリーネ
- ビゼー「カルメン」:ミカエラ
- モーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」:ヅェルリーナ
- モーツァルト「フィガロの結婚」:スザンナ
- モーツァルト「魔的」:パミーナ
- マスネ「ウェルテル」:ゾフィー
- プッチーニ「ジャンニ・スキッキ」:ラウレッタ
- プッチーニ「トゥーランドット」:リュー
- R.シュトラウス「アラベラ」:ズデンカ
スピントソプラノ
スピントソプラノはリリックソプラノよりもさらに重い声質が特徴です。
音域も全体的に少し低くなり、そのため中間音での豊かな響きが要求されます。
そのためキャラクター的には、リリックソプラノよりもより年齢が上な既婚女性を演じる事が増えてきますが、その代表的なものが、モーツァルト「フィガロの結婚」の伯爵夫人やヴェルディの「オテロ」に登場するデズデモナですね。
またモーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」に登場するドンナ・アンナのように、まだ独身でも内面的に非常に成熟した高貴な女性を演じる事もあります。
先にも触れましたが、スピントとドラマチックの境界戦というのは非常にあいまいで、どちらも歌った歌手は沢山います。
それではモーツァルト「フィガロの結婚」より伯爵夫人のアリア“Dove sono”を20世紀を代表するソプラノ、レナータ・テバルディの演奏で聞いてみましょう。
タイトルの下に私の肖像画を使っていただいて光栄ですわ。内面的に成熟した女性なんて、まさに私にぴったりというわけですのね。
- ベルク「ヴォツェック」:マリー
- ヤナーチェク「イェヌーファ」:イェヌーファ
- モーツァルト「フィガロの結婚」:伯爵夫人
- モーツァルト「ドン・ジョヴァンニ」:ドンナ・アンナ/ドンナ・エルヴィーラ
- ヴェルディ「オテロ」:デズデモナ
- ヴェルディ「シモン・ボッカネグラ」:マリア
- ヴァーグナー「マイスタージンガー」:エファ
- ヴァーグナー「ローエングリン」:エルザ
- ヴァーグナー「タンホイザー」:エリザベート
- プッチーニ「ボエーム」:ミミ
ドラマチックソプラノ
さてソプラノの中でも最も力強くドラマチックな表現を要求されるのがこのドラマチックソプラノです。
その声は響きが豊かで、より力強いものとなります。ヴェルディやヴァーグナー以降のオペラで多く登場した悲劇のヒロインを演じる事が多くなります。
ヴェルディ以降のオペラにおいてはオーケストラが大きくなった事に伴い、歌手にもよりドラマチックな声が要求されるようになりました。なのでほとんどがヴェルディ以降のオペラになります。
代表的な役柄としてはプッチーニ作曲の「トスカ」の題名役、「トゥーランドッド」の題名役、それからヴェルディ「アイーダ」の題名役、ヴァーグナー「トリスタンとイゾルデ」のイゾルデ役などがありますが、その役柄が題名になったオペラが沢山ありますね。
これらのオペラの歴史においても重要な役柄が歌えるソプラノの多くがプリマドンナとして活躍しました。
代表的なソプラノとしては、ビルギット・ニルソンやマリア・カラス、それから最近亡くなったジェシー・ノーマン等の名前が挙げられますね。
それではビルギット・ニルソンが演奏するトスカを聴いてみましょう!
ニルソンの声は力強いのに、柔らかくて本当に好きですわ。これがドラマチックソプラノの声なんですのね。
- ベートーベン「フィデリオ」:レオノーレ
- プッチーニ「西部の娘」:ミニー
- プッチーニ「トスカ」:トスカ
- プッチーニ「トゥーランドット」:トゥーランドット
- ヴェルディ「アイーダ」:アイーダ
- ヴェルディ「ドン・カルロ」:エリザベッタ
- ヴェルディ「マクベス」:レディ・マクベス
- ヴェルディ「運命の力」:レオノーラ
- ヴェルディ「仮面舞踏会」:アメーリア
- ヴァーグナー「ヴァルキューレ」:ブリュンヒルデ
- ヴァーグナー「トリスタンとイゾルデ」:イゾルデ
- ヴァーグナー「オランダ人」:センタ
- R.シュトラウス「ナクソス島のアリアドネ」:アリアドネ
- R.シュトラウス「エレクトラ」:エレクトラ
- R.シュトラウス「サロメ」:サロメ
- コルンゴルト「死の都」:マリエッテ
おわりに
今回はソプラノの声種の種類をざっと解説してみました。
最初にも言いましたが、ソプラノは種類が多いですが、逆にその境界線も曖昧です。マリア・カラス、レナータ・テバルディはスピントの役柄もドラマチックな役柄もどちらも歌いましたし、ミレッラ・フレーニもリリックとスピントの両方とも歌っています。
グルベローヴァはリリックの役柄も歌いましたしリリックコロラトゥーラ、そしてドラマチックコロラトゥーラの役柄も歌っています。
逆に見れば、プッチーニの「トスカ」のトスカ役はスピントソプラノによって歌われる事もあれば、ドラマチックソプラノによって歌われる事もありますし、モーツァルトの「フィガロの結婚」の伯爵夫人はスピントソプラノやドラマチックコロラトゥーラソプラノによって歌われています。
ソプラノというのは歌手の中でも最もたくさんいる声種になりますが、実際にはこれだけ違うソプラノがいます。色々なソプラノを聴いていくうちにだんだんこうした特徴が分るようになりますから、ぜひ沢山聴いてそうした違いを楽しんでください!
6種類もあるんですの?それは沢山ですわね。私はいったい何かしら?