オペラの新プロダクション(新演出)ができるまで!オペラ歌手はどんな準備をしている?【オペラ舞台裏】

みなさん、こんにちは。

みなさんはプレミエという言葉を聞いた事がありますか?

プレミエというのはオペラにおいては、新しいプロダクション(新しい演出の事)の初日を意味します。

劇場の大きさにもよりますが、どの歌劇場にとっても毎シーズン新たな演出によるプロダクションを発表する事は非常に重要です。その中でも新演出の初日であるプレミエは劇場にとっても歌手にとっても一大イベントとなっています!

今回は一つのオペラの新プロダクションができるまでの流れを歌手を中心に見ていきましょう!

①シーズンの演目が決まる

まず最初のステップが演目の決定ですね。これが決まらない事には始まりません。シーズンの演目というのは、歌劇場の大きさにもよりますが、たいていの歌劇場ではだいたい前のシーズンに決まります。(国際的な歌劇場だと、有名歌手を確保するためにもっと早く決めなければならない事も)

なので、プロダクションのスタートは公演初日から約一年前と思って大丈夫です。

プロダクションとは?

歌劇場どは、1シーズンの間にいろいろな演目を用意していますね。月のプログラムを見ても、今日はモーツァルトの「フィガロの結婚」、明日はヴェルディの「ドン・カルロ」、週末にはチャイコフスキーのバレエ「くるみ割り人形」などなど、いろんな演目があります。

私たちはこうした演出毎に異なる演目の事プロダクションと呼んでいます。

例えばこれまでに上演していた「フィガロの結婚」が別な演出家の下で新演出になる場合、新たな「フィガロの結婚」が出来上がる事になるわけですが、同じ演目であっても演出が異なるため、この二つは別なプロダクションという事になります。

②配役を決める

演目が決まったら、次に決めなければならないのは配役です。演目が決まり次第、演出家、指揮者、そして歌手の配役を決める事になります。

まずは演目が決まるのとほぼ同時にその劇場に所属する専属の指揮者や歌手で配役が決まりますが、それで埋まらなかった役をオーディションで選んでいくという作業に移ります。専属歌手がいない音楽祭などでは、最初から全ての配役をキャスティングしなければなりませんね。

ここは運営側の能力が大きく左右される部分です。オーディションはとにかく早めに行った方がよいです。私の経験上、だいたい公演初日の6から8か月前ぐらいにオーディションが行われる事が最も多いですね。運営側がもたもたしていると、舞台稽古が始まる一週間前になっても決まっていない役があるという事も・・・・

③配役が決まったら公に準備スタート!

配役が決まると、プロダクションの準備が公にスタートします。劇場の掲示板にはそのプロダクションの配役が劇場支配人のサイン入りで張り出されます。

配役が決まると、劇場のシュトゥーディエンライター(注1)がそれぞれの歌手がその役を勉強できるように、コレペティトア(注2)との音取りの練習計画を立てます。

稽古初日までに暗譜!

歌手は音楽稽古そして舞台稽古が始まるまでに、その役の音取りを始め、歌詞を勉強して、最終的に暗記しなければなりません

その間も別なプロダクションの練習に参加していたり、公演があったりと忙しいですが、空いている時間にコレペティトアと一緒に役の勉強をしていきます。

歌手としては早めに配役が決まってくれると準備も早くできるようになりますが、劇場側がもたもたしていて、中々決まらないという事も良くあります。そうなると準備に割ける時間が少なくなってしまうので、多くの歌手にとってストレスとなる事もあります・・。

注2: Korrepetitor コレペティトアとは?

コレペティトアは劇場に所属するピアニスの事です。舞台稽古や音楽稽古、ピアノリハーサルでピアノを弾く以外にも、歌手の譜読みを手伝って音楽的な指示を出したりします。

注1:Studienleiter シュトゥーディエンライターとは?

シュトゥーディエンライターは、コレペティトアの総まとめ役のような存在で、劇場に所属する歌手の新しい役の譜読み具合を把握し、コレペティトアとのリハーサルの計画を立てます。普段の舞台稽古のピアノ伴奏を務める事もあれば、場合によっては公演の指揮をする事もあります。

④公演初日の6から8週間前から稽古スタート!

演目の長さにもよりますが、だいたい公演初日に6~8週間前に稽古が本格的にスタートします。その流れを見ていきましょう!

①演出のコンセプトが発表!

まず最初に行われるのが、そのプロダクションのコンセプトの発表です。そのプロダクションを担当する演出家が、自分のコンセプトとして、舞台セット、それから舞台衣装、そして自分の演出に対するアイデアを発表します。

これは歌手にとってはある意味緊張する瞬間です。オペラ歌手のほとんどは、作曲家が意図した通りの、伝統的な演出を好みますが、最近の演出家はそうしたものを無視して独自のアイデアを取り入れたがる傾向にあるためです。

自分の役柄が美しい衣装だったら嬉しいですが、そうでなかったらがっかり・・・。何度経験するうちにどんな衣装とメイクになろうがいちいち気にならなくなりますが、最初の方は結構がっかりしましたね。

あまりにも衣装が気に入らなくて文句を言う歌手もいます。私も一度文句を言って変更してもらったことがありますね・・・(その時は頭全体を覆うマスクを着用するデザインでした・・)。

舞台セットや各役柄の衣装が発表される

②音楽稽古のスタート

さて、コンセプトが発表されると、まずは音楽稽古が始まります。ピアノの伴奏に合わせて指揮者と一緒にリハーサルです。

ゲストの歌手などとはここで初めて会う事になりますから、みんな楽しみな時間ですね。本来はこの音楽稽古というのは非常に重要な物ですから、沢山あればあるに越したことはないのですが、一日か二日しか行われない事がほとんどです・・。

コンセプトが発表される前に劇場にいる歌手だけで何度か先に練習する事もありますが、忙しいと真っ先に削られてしまうのがこの音楽稽古です・・・。

③舞台稽古のスタート

一通り音楽稽古が終わると、すぐに演出家と舞台稽古が始まります。スタジオに移動して演出家の指示に従いながら、演技の練習をするというわけです。

ちなみに舞台稽古の時間は午前が10時から14時まで、そして午後は18時から22時まで続きます。基本的に公演がある時と自分の出番のない時は稽古はありませんが、大きな役をやる時はずっと出ずっぱりなので結構疲れます・・。

舞台稽古用のスタジオ

④衣装の仮縫いに呼び出される

そんなに沢山あるわけではありませんが、衣装が発表されると何度か仮縫いに呼び出されます。仮縫いでは“もっと動きやすいようにしてくれ”などと注文を付ける事もできますから、歌手にとっても大事ですね。

“Ariadone auf Naxos” Foto:Hagen König

※R.シュトラウスのナクソス島のアリアドネより一場面。コメディアンのハルレキン役

⑤最終稽古(Endprobe)

さていよいよ公演初日まで10日となりました。公演初日までの残り10日ぐらいをドイツではエントプローベ(Endprobe)と呼んでいますが、これは日本語にすると最終リハーサル最終稽古といった所でしょうかね。

この最終リハーサルが始まると、演出家による稽古はもうありません。

①KHP ピアノリハーサル

公演初日の10日前ぐらいになると、ピアノリハーサルと呼ばれるものがあります。ドイツではクラヴィーア・ハウプトプローベ(Klavierhauptprobe)と呼ばれますが、歌手たちは実際に衣装とメイクを身に着けて本番通りに演技します。

ただしピアノリハーサルという名前の通り、オーケストラ伴奏ではなく、ピアノの伴奏によって行われます。

このリハーサルの目的は、これまでにやって来た演技だけでなく、衣装やメイク、それから音響や照明、舞台セットの動きを確認する事にあります。演出によっては舞台が音楽に合わせて動いたりする事もありますので、そういう動きを念入りにチェックします。

本番通りに通して行う事が望ましいですが、複雑な演出だと舞台転換などがうまくいかずに、何度も中断する事は決して珍しくないです。

なのでピアノリハーサルでは声をセーブして歌う歌手も多いです。

ちなみに私が所属していた劇場ではこのピアノリハーサルが2回あるのが通例となっていました。

②BO 舞台オーケストラリハーサル

ピアノリハーサルが終わるとオーケストラリハーサル(Bühnenorchsterprobe)が行われます。ピアノリハーサルと違うのは、このリハーサルでは演出家ではなくて指揮者が仕切るという点です。

歌手たちは舞台上でオーケストラに合わせて演技をしますが、音楽が目的なので、本番の衣装もメイクも身に着けません。

オーケストラリハーサルは演目にもよりますが全部で4回から6回ぐらいあります。

※ちなみに舞台オーケストラリハーサルに入る少し前に、リハーサル室で行われるオーケストラリハーサルも1,2回あります。

③HP ハウプトプローベ

オーケストラリハーサルが終わると、ハウプトプローベ(Hauptprobe)というリハーサルが行われます。ここでは指揮者に代わって再び演出家が場を仕切ります

歌手は本番と同じ衣装、メイクを身に着け、オーケストラ伴奏によって歌います。ただハウプトプローベはピアノリハーサルと同様に歌手だけではなく照明や舞台転換など舞台裏で働く人々にとって大事なリハーサルとなります。

こちらもピアノリハーサルと同様に複雑な演出では中断する場合が多く、歌手によっては本番に備えて声をセーブする人も少なくないです。

ハウプトプローベの後では、演出家からの最後の批評があります。早い場合は16時ぐらいからメイク入りする事もありますが、全部が終わるのは12時近くになることも良くあります

ロッシーニ「チェネレントラ」より、リハーサル中の一枚

④GP ゲネラルプローベ

さて、ハウプトプローベが終わるといよいよゲネラルプローベ(Generalprobe)が行われます。

これは公演初日の2日前に行われる場合が多いですが、本番と同じように衣装やメイクを付けて通して行われます。より本番に近づけるために関係者や同僚などを招待して観客を入れて行われる場合がほとんどです。

ゲネラルプローベの後でお客さんを返した後で、初日に備えて歌手たちはカーテンコール(公演後の拍手)の練習をします(舞台に出ていく順番)。これは演出家によってはハウプトプローベの後にやってしまう場合もあります。

⑥いよいよプレミエ(公演初日)

さて、いよいよ公演初日のプレミエ(Premier)の日がやって来ました。この日は新聞の批評家たちもやって来ますので、劇場にとっても歌手にとっても普段の公演とはまた少し違った雰囲気になります。

無事に公演が終わると、その後ホールでパーティーが行われる事がほとんどです。

これで約1年かけて準備してきたプロダクションもようやく公演初日を迎える事が出来ました。パーティーで思いっきり羽根を伸ばしたいところですが、その二日後にはすでに次のプロダクションの稽古が始まる、という事も少なくありません。

おわりに

今回は、オペラのプロダクションができるまでの様子を歌手を中心に紹介しました。

今回はあまり触れませんでしたが、これと並行して、大道具係や小道具係、衣装係はそれぞれのプロダクション用にセットや小道具、衣装を一から作ります(再利用できるものは利用する事もありますが。)

劇場に所属している歌手は、だいたい1シーズンで3から4つの新しいプロダクションに関わる事が多いですが、他のプロダクションの稽古をしながら、だいたい遅くとも1年から半年前ぐらいからは次の役の準備を始めるという感じになります。

私は稽古が始まる直前に必死になって暗譜をするのが嫌いなので、とにかく早めに準備する事を心がけています!


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