「イタリアの歌唱法を習いたければメッテルニヒの所へ行け!」ヨーゼフ・メッテルニヒの歌唱の魅力を紹介!

みなさん、こんにちは。

今回はドイツ人のバリトン、ヨーゼフ・メッテルニヒを紹介しましょう。ドイツ人バリトンと言えば、日本ではドイツ歌曲の名手としてディートリヒ・フィッシャー・ディースカウヘルマン・プライが有名ですが、ドイツのバリトンを語る上ではヨーゼフ・メッテルニヒは外すことはできません。

早速彼の紹介をしましょう!

ヨーゼフ・メッテルニヒについて

ヨーゼフ・メッテルニヒ(Josef Metternich)は1915年にドイツで生まれたバリトンです。声質はドラマチック・バリトンに分類されます。1915年生まれという事で、これはテノールのマリオ・デル・モナコやソプラノのエリザベート・シュヴァルツコップフと同じ年に生まれた事になります。

メッテルニヒはドイツ人として国際的にイタリアのオペラを歌った数少ない歌手として知られています。彼は第2次大戦後の50年代にメトロポリタンオペラと契約し、ドイツ人なのに、当時スターだったテノールのリチャード・タッカーらと共にイタリアオペラを歌いました

しかし第2次大戦後と言う事もあり、ユダヤ人が多く活躍するニューヨークはドイツ人であるメッテルニヒにとっては非常に難しい場所だったようです。先にも書きましたが、ユダヤ人でありアメリカの大スターだったテノールのリチャード・タッカーが友人として紹介してくれた事が随分助けとなったようですが、結局のところ4 年でドイツに戻ってきます。

それ以降はドイツのバイエルン州立歌劇場を中心にヨーロッパで活躍し、晩年はケルンの音楽大学で教授を後進の指導にあたりました。

ドイツに戻って来てからは、当時の慣習に従い、ドイツ語での録音ばかりが残されていますが、それでも彼はイタリアオペラを中心に歌い続けました。

一つ面白いエピソードがありますので紹介しましょう。イタリアのテノール、マリオ・デル・モナコは、ある時生徒に向かってこう言ったとされています。“イタリアの本当の歌唱技術を学びたければイタリアには行くな。ドイツのメッテルニヒの所に行くんだ!”(Frank Schneiderによる談話より)

彼は教師としても優秀で、彼の門下から多くの世界的な歌手が出ています。実は私の現在のコーチであるバリトン歌手のカイ・ギュンターは歌の勉強を始めた時からメッテルニヒが亡くなるまで約20年間ずっと彼の下で学んでおり、現在の私のテクニックにも共通する部分が沢山あります。

イタリア人も認めるイタリアのテクニック!

マリオ・デル・モナコがイタリアのテクニックを学びたければメッテルニヒの下に行け!と言ったエピソードには触れましたが、メッテルニヒのテクニックは当時のドイツ人歌手達とは異なり、イタリアの伝統を受け継ぐテクニックとなっています。メッテルニヒ自身はイタリアで学び、さらにニューヨークに移ってから当時の共演者である大歌手達と共に経験的にこのテクニックを身に着けたようです

私自身はテクニックをイタリア、ドイツと分けるのはあまり好きではありませんが、当人は自分のテクニックが他の当時のドイツ人とははっきりと異なるという自覚を持っていたようです。そして自分のテクニックはイタリアのテクニックだと言っています。

イタリアのテクニックと言われる最大の特徴は、その母音とレガートのラインにあります。イタリアのテクニックにおいては高音域をカバーさせるパッサッジョという技術が非常に重要になりますが、メッテルニヒはそのカバーを良くマスターしていました(パッサッジョの直前に母音が広がりすぎる事はたまにありましたが・・。)。

パッサジョについては別な記事でも解説していますので、ここでの詳しい説明は省きますが、パッサジョを通過した音は、高音に行くにしたがい、より広がりを持った音となります(カバーされているけれどオープンな音色)。つまりアリアの最高音が非常に解放感のある音となるのです。メッテルニヒのカバーされていて、かつ開放的な高音のクオリティーは当時活躍したイタリア人のバリトンよりも明らかに優れたものでした。

ついでなので、もう一つ当時のドイツ人とイタリア系テクニックの違いにも触れておきましょう。ドイツ人が多くの場面において頭声に頼った声を使うのに対してイタリアのテクニックでは高音においても胸声の響きが重要になります。それを実現するためにはフィジカルがさらに重要となりますが、メッテルニヒは非常に体を使った歌い方をしています。

ヴェルディのオペラ「マクベス」より非常に美しいアリア、Pieta,rispetto, amoreを聴いてみてください。

この録音は1950年にベルリンで録音されたものになりますので、当時の慣習に従いイタリアオペラでありながらドイツ語で演奏されています。ドイツ語というのは子音が非常に多いため、母音のラインをつなげてレガートで歌うのが難しいです。そのためレガートを犠牲にして言葉を強調するような歌い方をする歌手も多いのですが(その方が簡単)、メッテルニヒのレガートは理想的です。言葉は明瞭なのに、フレーズがぶつぶつ切れることがありません。ドイツ語でオペラを歌う歌手がお手本にすべき歌唱法がここにあります。

レガートの秘密は、母音によって喉の位置がいちいち変わらない事です全ての母音が、音の高さやその母音の種類に関係なく同じ位置で振動し続けているので、滑らかなラインが可能になるというわけです。

ぜひとも聴いて欲しいのが、最後のカデンツァで歌う高音A♭の音です。これが私がこのブログの中で時々言っている、オープン・カバードという音です。音はパッサッジョを通過してカバーされていますが、それでも広がりがある開放的な音となっています。きちんとパッサッジョを通過しないとその先の高音がこのように響くことはありません。そしてこの解放感こそがイタリアのオペラを歌う上では欠かせないのです!

メッテルニヒの数少ないイタリア語録音

メッテルニヒはイタリアのオペラを得意としたにも関わらず、残念な事にイタリア語の録音というのは非常に少ないです。あんまり録音状態は良くありませんが、メトロポリタンオペラでのライブ録音(イタリア語)が残っていますので、紹介しましょう!

ヴェルディのオペラ「仮面舞踏会」の全曲録音になりますが、レナートの歌うアリア“Eri tu”から再生されるようにマークを入れておきました。

この日のメッテルニヒは調子があまり良くはなかったようで、音程もしばしば下がり気味となっていますし、フレーズも短いです。それでも先ほど説明したような、彼の歌唱の特徴がしっかりと表れていますね。

ヴァーグナーをイタリア式発声で歌うと主張!

イタリアオペラを得意としたメッテルニヒですが、もちろんドイツオペラも上演しています。彼はフリッチャイの指揮でヴァーグナーの「さまよえるオランダ人」のオランダ人役を録音していますが、その役を引き受ける上で、フリッチャイに向かって“やるのは構わないが、私は他のドイツ人のようには歌わない。イタリアのテクニックでヴァーグナーを歌うけれどそれでも良いか?”と言ったようです(テレビ番組Da Capoのインタビューより)。

ドイツ人に関わらず、多くのヴァーグナー歌手は、ヴァーグナーのオペラを歌う上で力で押してしまう傾向にあります。最近ではヴァーグナーとはそういうものだと思っている人もいるようですが、やはりヴァーグナーの魅力は美しく歌ってこそです。

というわけで、ちょっと長いですが、オランダ人のモノローグ“Der Frist ist um”を聴いてみてください(長いので後半部分から再生されるようにマークしておきました)。

レガートでありながらも明瞭な発音、そして決して不用意なアタックでフレーズの頭を強調する事のない歌いだしを聴くことができます。

彼が残したヴァーグナーの録音はライブが多く、状態がそれほど良くないのは残念ですが、オランダ人以外にも「ローエングリン」のテルラムント伯なども聞くことが出来ますので、ヴァーグナーが好きな方はぜひ聴いてみてください!

おわりに

さて、今回はドイツ人バリトンのメッテルニヒを紹介しました。イタリアのテクニックばかりを強調してしまいましたが、キーワードは解放感です。

音楽において大事なのは何よりもその音楽の心です。私達演奏家は作曲家の音楽、オペラのキャラクター、そして演奏者自身の心、もしくは魂を聴衆に届けるのが務めです。私たちがそうした心を届けるのは、音が解放されて初めて実現されるのです。

メッテルニヒの魅力もまさにそこにあります。


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