こんにちは。今回はイタリア人テノールのジョヴァンニ・マルティネッリを紹介しましょう!
マルティネリはジーリ、スキーパ、ペルティレ、ラウリ・ヴォルピと並ぶカルーソーの後を代表するイタリア人テノールです。
私はジーリ、スキーパ、ペルティレ、ラウリ・ヴォルピ、マルティネッリの5人をカルーソー後の時代を代表する5大テノールと勝手に呼んでいます。20世紀を代表するテノールが5人も同じ時期に活躍したのは本当にすごい事です。
では早速見ていきましょう!
もくじ
ジョヴァンニ・マルティネッリについて
マルティネッリはアウレリアーノ・ペルティレと同年の1885年にイタリアで生まれました。彼は1912年、プッチ―ニの《西部の娘》のスカラ座の初演において作曲家の希望で出演しています。
彼はカルーソーにかわいがられていた歌手としても知られていますが、カルーソーのなくなった後、30年以上にわたってニューヨークのメトロポリタン歌劇場で活躍しました。
マルティネッリの声質はスピントとドラマチックな声質で「アイーダ」のラダメスや「オテロ」の題名役など英雄的な役を得意とし、リリックテノールの代表であるべニアミーノ・ジーリとメトロポリタン・オペラで当時人気を二分しています。
マルティネリの歌唱の魅力
では早速マルティネリの歌唱の魅力を一緒に聴いていきましょう!
はっきりとした母音の美しさ
マルティネリの歌唱の最大の特徴は、何と言っても母音の美しさです。彼の母音は非常にはっきりしています。はっきりした母音と言うのは、A,E,I,O,Uの区別がはっきりしているという意味とは少し違います。このはっきりしているというのは、母音がダイレクトであると言い換える事もできるでしょう。彼の母音は決して広がりすぎる事なく、どの母音も適度にカバーされており美しいですが、非常にダイレクトなのです。
はっきりした母音で歌うためには喉がしっかりと広がっており、低い位置をキープしている事が必要となりますが、そこでできたスペースが決して舌によって遮られない事が大事になります。なので声がダイレクトに伝わってきます。
この時代の歌手はだいたいどの歌手も母音がひじょうにきれいではっきりとしていますが、マルティネリは特にそれが良く分かります。
この“Amor ti vieta”はジョルダーノのオペラ「フェドーラ」においてロリス・イパノフ伯爵が歌うアリアになりますが、まずはマルティネッリの歌いだしを聴いてみてください。Amor ti vietaの最初のAの母音こそ若干開きすぎなものの、そのダイレクトさには非常に目を見張るものがありますね。音が出た瞬間に、本来あるべき位置に声があるというのは歌手にとって非常に大事な事です。これは先にも書いたように喉の位置、支えがしっかりできて初めて実現する事だからです。
マルティネリも多くのイタリア人歌手がそうであるように、パッサジョ域の手前で若干Aの母音が広がりぎみになる傾向はあるものの、彼の母音はどの音域においても基本統率がとれていてとても美しいです。音色が音域によって大きく異なることは決してありません。
ヴィブラートは少ない
次はプッチ―ニのオペラ「西部の娘」よりディック・ジョンソンが歌う“Ch’ella mi creda”というアリアを聴いてみましょう。
この役はマルティネリがプッチーニの希望でミラノのスカラ座初演の際に歌った役になります。この録音はマルティネリが65歳の時に録音したものとされていますが、まずは彼の声の瑞々しさに驚かされますね。声は非常に高密度で、65歳とは思えないほどの若々しさを保っています。所々音程が不安定になるところもありますが、それは年齢のためにコントロールが衰えたためでしょう。
この録音を紹介したのは歴史的な意味合いからになりますが、この録音に限らずマルティネリの声の特徴としてはヴィブラートが少ないという事が挙げられます。
しかしこれは何も決して悪い事ではありませんよ。最近の古楽などで流行しているノン・ヴィブラート唱法においては、喉を締めて、さらに息を止めることによって無理やりヴィブラートを抑えた声を出していますが、マルティネッリの声はそうしたノン・ヴィブラートとは全く違いますよ。彼の声の場合は喉がしっかり開き、低い位置をキープし、さらに舌によってスペースが遮られることがまったくありません。彼の声はオルガンのパイプや蒸気船の汽笛のように全体が響いています。
歌うフォームをチェックしてみよう
マルティネッリはアメリカで大活躍した事もあり映像もいくつか残っています。ナポリ民謡として知られる「帰れソレントへ」のビデオを見てください!
まず首の太さがすごいですね。イタリア人にはもともと首が短い人が多いですが、喉を下げるために首の筋肉を引っ張って歌う事で歌手の首はだんだん太くなってきます。喉の位置は常に低い位置をキープしており、そうするために首の筋肉を引っ張ているのが映像からもわかると思います。
私たちは喉を下げて舌の後ろのスペースを大きくして(喉を開いて)歌わなければなりませんが、それができると口をむやみやたらに大きくして歌う必要が無くなります。彼の口の大きさにも注目してみてください。
そして顎は常にリラックスした状態にあり、常に上を向いていますね。中学校の合唱の授業なんかで、顎は引いて歌えと教わりますが、それは間違いです。顎はマルティネッリのように少し上を向いているのが理想的です。顎に関してはまた別な記事で詳しく書こうと思いますが、まあ気道確保をイメージしてみてください。こうした方が喉のスペースをより有効的に使う事が出来ますし、舌を奥に押し込む危険性を減らすことができます。
おわりに
ペルティレやマルティネッリなどの昔の録音は慣れるまではみんな同じように聞こえるかもしれませんが、これらの特徴を頭において聴いてみると違いがだんだん分かってくると思います。
私は車の中でこうした昔の大歌手のCDを良く聞いています。最近ライプツィヒまで車で4時間半ドライブしましたが、マルティネリ、ペルティレ、ラウリ・ヴォルピ、そしてスペイン人テノールのミゲル・フレタのアリア集のCDを一枚ずつ聞いたら丁度目的地に到着しました。
以前このコーナーで紹介したフランコ・ボニソッリは真っ暗な部屋でカルーソーの録音を聴いて瞑想すると言っていましたが、Youtube視聴だけで終わらず、ぜひとも大歌手の録音を沢山聴いて欲しいものです。
首の太さなら私も負けませんよ!