おすすめのオペラ歌手!ユッシ・ビヨルリングの歌唱の魅力!!【大歌手から学ぶ】

みなさん、こんにちは。

今回は私が大好きなテノールの一人、スウェーデン出身のテノール、ユッシ・ビヨルリングの歌唱の魅力を紹介します。

ユッシ・ビヨルリングについて

ユッシ・ビヨルリングは1911年にスウェーデンで生まれたテノール歌手です。彼が生まれたのは声楽家一家。父親もテノール歌手でしたが、なんと彼の兄弟もみんな歌手です。

彼らはビヨルリングが6歳の時に、父、二人の兄とともにビヨルリング・カルテット(もしくは子供だけのビヨルリング・ボーイズ・トリオ)を結成し、人気を集めます。

ボーイソプラノとしてデビューする歌手は決して少なくありませんが、そこから世界的なオペラ歌手になった例はあまりありませんね。

6歳から人前で歌っていたビヨルリングですが、17歳からスウェーデンのストックホルム音楽院で本格的に勉強します。そしてわずか19歳の時にスウェーデン王立劇場に「ドン・ジョヴァンニ」のドン・オッターヴィオ役でデビューしています。

その後順調にキャリアを伸ばし、世界中の大きな歌劇場で歌いますが、1960年、49歳の時に心臓発作に倒れ、その数か月後に亡くなってしまいます。

ビヨルリングが活躍し始めた時期は、ちょうどオペラの全曲録音が本格的に開始された時期でもあり、私達も「ボエーム」や「トロヴァトーレ」などいくつかの全曲録音を聞くことが出来ます。

※参考文献:ニューグローブ音楽大辞典

柔らかさと力強さを備えたテノール

ビヨルリングの声質は非常に特徴的です。つい最近紹介したマルティネッリやペルティレのようにイタリア人の持つ金属的な声質とは違い、彼の声にはどちらかと言えば全体的に木管楽器のような響きがあります。ビヨルリングはこのような声の声質を活かした柔らかい表現をすることが非常にうまかったです。

そのため彼をリリックテノールに分類する人達もいますね。実際、グノーの「ファウスト」や「ロメオとジュリエット」などリリックな役柄も歌っています。

ここでグノーの「ファウスト」からファウストの歌うアリア“Salut demeure chaste et pure”をぜひ聞いてみてください。

彼の声は息が非常に柔らかいですね。まるでため息に乗せて歌っているかのように感じられます。しかし息のスピードは速く常に一定の回転数(ビブラート)を保っています。このように柔らかく歌う事が出来るのは、支えと呼吸が非常に安定しているからです。これは歌う上では非常に重要ですよ。

しかし彼の声の魅力は柔らかさだけではありません。彼の声は力強さも備えており、ヴェルディやプッチーニの少々重い声を要求するような役柄でもしっかりとその魅力を発揮する事が出来ました。

彼は残念ながらヴェルディのオテロを歌う事はありませんでしたが、バリトンのロバート・メリルとともに2重唱を録音しています。(ちなみにロバート・メリルは20世紀を代表する素晴らしいバリトンですのでいずれ紹介します。)

オテロのような重い役を歌うためには、より強靭な呼吸の支えが必要になりますが、ビヨルリングの支えはそれに十分耐えられるものですね。最初から最後まで非常に高いインテンシティを保っています。

これはビヨルリングよりも前に活躍したイタリア人テノールのジーリにも共通する事でありますが、柔らかい声質でありながらも、強靭な支えによって、少々重い役柄でも歌う事が可能となっています。もちろんビヨルリングの方がいくらか暗くて重めの声質ですから、より重めのレパートリーに適した声であると言えます。

18歳ですでに完成されたテノール

子供の頃から歌っていたビヨルリングが、いったいどのようにしてそのような技術を習得したのかは非常に興味深く、できれば本人に質問してみたいところですが、残念ながらそれはできませんね・・・。

実はビヨルリングは18歳の時にすでに多くの曲を録音しています。ほとんどがスウェーデン語になりますが、そのうちの一つレオンカヴァッロ作曲の「マッティナータ」を聞いてみてください。

先ほどのオテロと比べてまだ力強さはありませんが、テクニックの基本はすでに18歳で完成されているのが分かりますね。中間音から高音まで響きが統一されており、どこにもテクニック面で難しさや問題がありません。若いテノールの多くが高音で苦労する事を考えると、これは本当に見事です。

18歳でこのように歌える歌手は今の時代どこを探してもいないでしょう。18歳でこんなに歌えるなんて非常に早熟だとも思われますが、6歳から人前で歌っていた事を考えると、決してそうでもないような・・・。

これはあくまで想像にすぎませんが、ビヨルリングの父親も優れた歌手だったのではないかと思います。小さい頃からそのような歌手のそばで歌っていく事で、直感的に真似をしながら正しい歌い方と、必要な筋肉を身に着けていったのではないかと思います。

それから子供の頃の演奏を聴いてみますと、教会で歌うボーイソプラノとは違い決して裏声を多用するような歌い方ではありませんね。スウェーデンの民謡をしっかりと地声で歌っています。それによって必要な筋肉が鍛えられていったのかもしれませんね。

子供のころからそうしていれば18歳で完成形になったとしても決して不思議ではありません。

素晴らしいコントロールと音楽性

ビヨルリングの最も素晴らしい点はそのコントロールと音楽性です。大歌手たちはみなその素晴らしい声をコントロールする方法を身に着けていましたが、ビヨルリングのコントロールはその中でも抜群です。

私がブレーメンで学んでいる時に先生から、「歌手は6つの事柄が出来なければならない。高く、低く、強く、弱く、速く、遅くだ。」と言われた事があります。世の中にはその中のどれか一つだけが得意な歌手が多いです。たいてい強い声を得意とする歌手は弱い声が出来ませんし、コロラトゥーラも苦手です。逆もまたしかり。しかしビヨルリングはこの6つのポイントどれをとっても高いコントロールを保っていました。

そしてそれが彼の音楽性に裏打ちされています。この時代のオペラ歌手はオペラ以外にはポピュラーソングを録音することはあっても、ドイツ歌曲などを録音する事はそれほど多くはありませんでした。

そんな中でもビヨルリングが1939年にベートーベンのアデライーデを録音した物がありますのでぜひご視聴ください。

この録音のようにベートーベンの歌曲で所々にリタルダンドを多用した歌い方をする歌手は今ではほとんどいませんが、1939年という事を考えればそれは仕方ない事でしょう。それよりもこのような時代であってもドイツ歌曲をこのように歌う音楽的な感性を持っていた事こそが特筆に値しますね。これは当時大活躍した他のテノールには真似できない事でした。

彼は所々で聞かれる柔らかい声から、力強い声まで非常に多彩な音色でこの歌曲を歌ってくれます。もちろんこれは非常に優れたコントロールがあってできる事です。

このように歌曲を歌える歌手が今いったいどれだけいるでしょうか?

おわりに

私はビヨルリングのCDを何枚も持っていますが、中でも1955年のカーネギーホールでのリサイタルのCDがお気に入りです。すべてピアノ伴奏で、アリアやドイツ歌曲を合わせて20曲以上も歌っています。

ベートーベン、シューベルトの歌曲からプッチーニやジョルダーノのオペラアリア、そしてグリークなど北欧の歌曲を一晩で歌っています。これはテクニックに柔軟性があってはじめて成し遂げられる事です。このようになんでも歌えるというのは歌手が理想とするゴールの一つでしょう。

スタジオ録音全盛期に入る1960年に亡くなってしまったのは非常に残念でしたが、それでも彼の残した録音が沢山ありますので、ぜひ聴いてみてください!

おまけ

※ビヨルリングの兄、オレ・ビヨルリングの演奏

※ビヨルリングの弟、ゲスタ・ビヨルリングの演奏

※大人になってから3人の演奏


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