みなさん、こんにちは。
今回の大歌手シリーズでは、歴代最高のオテロと呼ばれているラモン・ヴィナイの歌唱を紹介します!
もくじ
ラモン・ヴィナイ
ラモン・ヴィナイは1911年に生まれたチリ人のテノール歌手です。
バリトン歌手としてキャリアをスタートさせた彼は、その後テノールに転向し、40年代、50年代にかけてドラマチックテノールとして大活躍しました。中でもヴェルディ作曲「オテロ」のオテロ役としての評価は非常に高く、今でも歴代最高のオテロの一人と言われていますね。
40年代から50年代にかけて巨匠フルトヴェングラー、それから巨匠トスカニーニの指揮でオテロの全曲を録音しています。
中でもトスカニーニとのスタジオ録音は私のお気に入りでもあります。
その他にも彼はトリスタンやタンホイザーなどワーグナーの主要な役も歌い、ヘルデンテノールとしても活躍しました。1950年代にはカラヤンの指揮で「トリスタンとイゾルデ」の全曲を録音していますが、これも私のお気に入りとなっています。
今回はそのラモン・ヴィナイの魅力を聴いていきましょう!
歴代最高のオテロ
ヴェルディ作曲「オテロ」のオテロ役と言えば50年代から60年代にかけて大活躍したマリオ・デル・モナコが有名ですが、その10年ばかり前にオテロとして大活躍したのがこのラモン・ヴィナイです。
彼の魅力はなんといってもバリトン出身ということもあり、深みのある中間音と力強さですね。
しかし彼の魅力はそれだけではありません。歌手の中には声の事ばかり考えて、音楽や演技がおろそかになってしまう人も決して少なくはありませんが、彼の場合は、そういう事はあまりありませんでした。
まずはオテロの登場シーン“Esultate”を聴いてみましょう。この登場シーンがあるからオテロを歌うのが嫌だ、というぐらい出だしから歌手に最高潮を要求するのがこのオペラです。演奏時間は約30秒と短いですが、オテロを歌う歌手はこの出だしの30秒でオテロの魅力を表現しなければいけません。
まずこの30秒でラモン・ヴィナイの声の響きがバリトン的である事に気が付くと思います。それこそがまさに彼の魅力ですね。こういう暗い音色を持ったテノールというのは今ではほとんどいなくなってしまいました。それでいながら、最初の30秒でHの音まで出さなければなりませんので、まあ歌う方は大変です。
ラモン・ヴィナイの歌唱の特徴は、イタリア人の多くの歌手がパッサッジョ域(声区のチェンジ)ぎりぎりまで割とオープンに歌っていたのに対して、早い段階からカバーして歌っていたことです。これによって彼はより統一された響きでフレーズを歌う事を可能にしています。
次はヴェルディのオペラ「オテロ」の1幕で歌われる、オテロとデズデモナの二重唱“Gia nella notte densa”を聴いてみましょう。
オテロを歌えるテノールが少ないので、そこまで有名ではありませんが、テノールとソプラノの二重唱の中では最も素晴らしいものの一つです。
オテロといえば力強さばかりが取り上げられますが、この二重唱は柔らかく歌いださなければなりません。
そうした中間音域を柔らかく歌い上げることができたのも、彼の魅力でしょう。
最後はオテロが3幕で歌うアリア、“Dio mi potevi“になります。これはデズデモナとカッシオの不倫を確信し、怒り、落胆、復讐と様々な葛藤の中で歌われるアリアとなっていますが、ヴィナイの歌唱からはそうした息遣いが感じられます。それが私が特にヴィナイが好きな理由でもありますね。
ヴァーグナー歌いとしても大活躍
ラモン・ヴィナイはヴァーグナー歌いとしても活躍しました。
こちらはヴァーグナーのオペラ「ヴァルキューレ」よりジークムントが歌うアリア“Winterstürme wichen dem Wonnemond”になります。これぞまさにヘルデンテノールと呼ぶにふさわしい声でしょう!
私、テノールのキンキン声はあまり苦手でしたけれど、彼はまったく違いますわね。
ヴァーグナーのオペラがテノールにとって難しいのは、いわゆるパッサッジョ(F-Fis-G)の音が沢山出てくるためとされています。いわゆるチェンジの音域をずっと歌う事になるので、いつ声区をチェンジしたらよいのか定まらないまま歌い続ける羽目になってしまうのです。しかし先にも書きましたが、ヴィナイは普通のテノールよりも早い段階(もっと音が低いうちに)で声をカバー(チェンジ)してしまうので、その問題の音域をすべてカバーされた声の状態で歌う事が可能でした。
このテクニックで歌うとヴァーグナーも力押しすることなく、きれいに歌う事ができますが、それを実践してくれるテノールはほとんどいません。多くのドイツ人のヘルデンテノールは力押ししてしまう傾向が強いですが、私はそれをドイツ式テクニックと一つのテクニックと定めてしまう事には反対です。
ヴィナイは50年代にはタンホイザー、パルシファル、トリスタンといった役を歌っていますが、特にトリスタン役はおすすめです。
おわりに
今回はチリのテノール、ラモン・ヴィナイを紹介しました。私のおすすめの一枚はトスカニーニ指揮のオテロになります。(フルトヴェングラーは他のキャストがいまいち・・。)ぜひ聴いてみてください。
それにしても最近はYoutubeでこうした過去の大歌手の録音が手軽に聴けるようになったので良いですね。日本にいる頃は渋谷のタワーレコードで良くCDを買いあさったものです。
本当に力強い声ですわね。素敵ですわ!