こんにちは。
皆さん、これまでに声を鼻腔に響かせる、とかおでこや額に響かせるとか言う話を聞いた事がありませんか?
私たちは鼻腔、頬骨、額など、頭のどこかに響かせた声の事を頭声と呼んでいますね。そしてそれは良く胸に響かせた胸声と区別して使われたりします。
ではこの頭声とはいったいどんなことなのでしょうか?それから具体的に鼻腔や頬骨に響かせるという事はどういう事なのでしょうか?
今回は発声の中でも頭声に関する話をしたいと思います。
もくじ
頭声とは?
オペラ歌手の声が良く響くのは声が自分の体に共鳴しているからです。そしてその共鳴する場所を良く頭と胸に分けて、頭声、それから胸声なんて呼んでいます。
では頭声とは具体的にどういうものなのか早速見てみましょう。
鼻腔
鼻腔と言う言葉は声楽を勉強したことがある人なら一度は聞いた事がある言葉だと思います。人間の頭の中には上の図にあるように鼻腔、それから副鼻腔と呼ばれる空間があります。
この空間に声を共鳴させようとするのが鼻腔共鳴というものですね。頭声というと真っ先に思い浮かぶのこの鼻腔共鳴ではないかと思います。
頬骨、額(マスク)
鼻腔は実際に空洞状になっていますので、そこに共鳴させるという考え方は理解しやすいかと思いますが、それとは別に、頬骨や上あごの骨。それから額の骨に響かせるという考え方もあります。こちらはマスク(顔の前面)に響かせるという言い方をしたりしますね。
こちらは、実際に声を頬骨などに当てて、骨を振動させるという考え方になります。
同じ頭声でも鼻腔と頬骨(マスク)ではアプローチが違う
さて、鼻腔もマスクも同じ頭声ですが、一方は空間を響かせようとするのに対し、もう一方は前面の骨を響かせようとしていますから、同じ頭声と言っても微妙にアプローチが違いますね。
ここでは、とりあえず頭声といっても異なるアプローチがあることだけ抑えておけばオーケーです!
どうやって頭声に響かせるのか?
ではどうやって鼻腔やらマスクに響かせたら良いのでしょうか?
おっ!いよいよ本題だな!
その答えは、ずばり:鼻腔やマスクに響かせることを考える必要はありません!!!
ズコー!なんじゃそりゃ!!今回は頭声の響かせ方の説明じゃなかったのかい?
むしろ、私たちは鼻腔やマスクに響かせる事を考えない方が良いです。これからその理由を説明していきましょう。
響きや共鳴はあくまでパッシブである事を理解しよう!
まず大事なのは、頭声というのはあくまでパッシブである事を理解する必要があります。パッシブというのは、受動的、それから非活動的という意味です。これはどういう事かというと、私たちがそれに対して直接何かすることができない、という事を意味しています。
これに対して、横隔膜を使った呼吸、それから首の筋肉を引っ張て喉を自然に下ろし、声帯を引っ張る行為などを、アクティブであると言う事が出来ます。こちらは私たちがそれに対して直接何かをすることができる事を意味していますね。どこかの筋肉を動かすことが私たちにとってアクティブだという事になります。
声楽を勉強するにあたって、このアクティブとパッシブをしっかりと区別することは非常に大事ですよ!私たちが直接行動を起こすことができるのは、アクティブに分類される行為だけです。
これが意味する事はいくら鼻腔に響かせようと一生懸命頑張ったところで、鼻腔が勝手に広がったり、響きだすことはない、という事です。いくら念力を送ってもだめです。これらはあくまでパッシブだからです。
頭声に限らず、響きというのは私たちができるアクティブな動作を正しくやる事に影響されて、その結果として後から付いてくるものなのです。
まずはここはしっかり押さえてもらいたいところです。ここまで大丈夫でしょうか?
とりあえず頭声はパッシブだと言う事は分かったけど、いまいちしっくりこないぜ・・・。
ではちょっと例を出して話してみましょう。
パッシブとアクティブの関係
ヴァイオリンを見てください!ヴァイオリンは弦を張って、弓を使って弦を振動させることで、ボディが振動しますね。この場合弦を引っ張る行為(調弦)、それから弓で弦を振動させる行為をアクティブと言う事が出来ます。その結果初めてボディが響きますからボディはあくまでパッシブです。私たちはいくら頑張ってもボディの固さや形、大きさを変える事はできません。
ヴァイオリンのボディの響きはあくまでパッシブです。同じヴァイオリンであっても、うまい人が弾いたら良く響きますし、初心者が弾いたらあまり響きません。これはパッシブであるボディの響きが弓で弦を振動させるというアクティブな行為によって影響を受けている事を表しています。
ボディを響かせようと思ったら、どのように弓を使って弦を振動させるか、そこが大事になってくるわけです。
なんとなくわかってきたぜ。要はアクティブな行為が大事なんだな!
先ほど私は、鼻腔やマスクに響かせる事について考えるべきではないと言いましたが、実はここにその理由があるんです。
どうして鼻腔やマスクに響かせる事について考えるべきではないか
鼻腔やマスクに代表されるような頭声はあくまでパッシブだという事を話しましたが、実際の声楽の世界では、これらがまるでアクティブであるかのような扱われ方をしています。
これまでレッスンや音楽の授業なんかで、「鼻腔よ、鼻腔!」、「響きよ‼響き!」「マスクに響かせて!」みたいなことを言われた事がある人は結構多いのではないかと思います。教師にこういう要求をされた時、素直な生徒は、どうするかと言うと、一生懸命響きを探し始めます。どこか一点集中すれば、響く場所を感じる事ができるのではないか、と思うわけです。
そういえば、“もっと響かせて”!って言われてるけど、さっぱりだったよ。
こうして「響きの探求を始める旅」へと出発してしまうのです。探求していけばいつか見つかるのではないかという希望を抱いて。
ここでもう一度ヴァイオリンに登場してもらいましょう。
先生に響きを要求された生徒は、響きを一生懸命探そうとします。「頭の中のどのあたりが一番響くのだろうか?」という事を探し始めるのです。それは、ヴァイオリンの上半分を響かせるためにはどうしたら良いのかを探す事に似ています。
あの上の部分を響かせるためにはどういう弾き方をしたらよいのか、そのための解決策を探るようになるのです。
でも本当にそんな事が可能なのでしょうか?ヴァイオリンにおいて上半分だけボディを響かせる事はおそらく不可能に近いでしょう。しかしボディの下半分をタオルで覆ったりすれば、上半分だけ響かせようとすること、もしくはそれに近いことは可能かもしれませんね。
まあヴァイオリンの上半分だけ響かせるなんて、無茶だろうね!
こうした発想は本来の発想とはまるで逆です。本来はこういう弓の使い方をするから、結果としてボディが響くという順序ですが、ボディの上半分を響かせたいから、そのために特別な方法を探し出すことになるからです。そしてこの逆の発想というのが問題となります。
私達は子音のNを発音する時に、鼻の両脇当たりの骨に響くポイントを感じることが出来ますが、そのあたりに集中して音を集めて響かせようとする事で、このマスクの骨を比較的簡単に響かせる事が出来ます。実際に響いているので、声に艶と輝きをもたらすことができます。
結果として、本来の方法ではない、まったく違った独自の方法にたどり着いてしまう可能性が高いからです・・
マスクに響かせるのは、まさに逆の発想
実はその独自の方法の最も良い例がマスクに響かせるという方法論です。本来パッシブであるはずの頭声をどうにかしてアクティブに響かせようとしたのがこのマスクに響かせるという方法です。
マスクに響かせようとして多く使われる方法の一つは、子音Nを利用する方法ですね。Nを発音した時に声が前の方に集まる感じがしますが、その感覚をきっかけに、声を顔前面の骨に響かせようとします。こうすると割と簡単に声を輝かせる事が出来ますので、割と多くの歌手がこの方法を採用しています。
しかしこれはホースの出口を小さく絞って一か所だけに水を当てているようなものです。響いているのはあくまで前面だけです。こうして生まれた声は、体、もしくは頭全体が均等に響いた声とはあきらかに違った種類の響きとなります。
その原因はマスクに頼るとたいてい、下の図のように舌の奥のスペースを確保するのが難しくなるからです。むしろそのスペースが狭くなってしまう可能性が高いです。マスクに響かせる歌い方では一か所だけを効率よく響かせることには成功していますが、全体を均等に響かせる事はむずかしくなってしまうのです。
偉大なテノールフランコ・コレッリはそのインタビューの中でマスクに響かせるテクニックは間違いだと語っています。彼はマスクに向かって響きを集めようとする事で喉のスペースが狭くなってしまうと語っていますね。私も彼の意見に賛成です。
確かにコレッリが言うと説得力があるな。
ではどうすれば良いのか?
本来パッシブである頭声の響きについて考えると、私たちがやるべきアクティブな行為の末たどり着くべきゴールとは違ったゴールにたどり着いてしまう可能性が高いです。だから私は歌う時に頭声については考えるべきではないと思っています。
私たちがやるべきことはアクティブな事に集中するだけです。以前、喉を下げて歌う方法という記事を書きましたのでそちらもぜひ読んでいただきたいのですが、まずは首の筋肉を引っ張って、喉を下げて、その奥のスペースをしっかり作り上げることが重要となります。
そのような状態になってはじめて声帯が理想的な閉じ方をするようになるからです。ためしに、小さな紙を自分の顔の前で2枚重ね合わせてそこに息を吹き込んでみてください。そうすると2枚の紙が互いに吸い合わさるようにして勝手に振動し始めると思います。声帯の理想的な閉じ方もこのイメージに近いです。2つの声帯が、息が通過する事で自然と振動をし始めるのです。私たちは歌う時、決して声帯に無駄な力をかけてはいけません。声帯を引っ張ってそこに息を通すことで、自然に声帯同士が合わさるのが理想です。
これはなんとなくわかるぜ!声を押したりしてはだめってことだな!
声帯の振動というのは、ヴァイオリンで言えばいわば、弓と弦の関係ですね。初心者は弓の使い方がまだわからないので、弦をきれいに振動させることができません。ヴァイオリンが響きだすのは何年も練習して弓の使い方が分かって来てからです。声楽家もこのように声帯を理想的に振動させることが出来るようになってようやく、頭と体全体が均等に響きだすようになります。これが最初の一歩です。まずは声帯を理想的に振動させるように訓練しなくてはなりません。響くためのスペースは最初から備わっているので決して心配する必要はありませんよ。
自分がアクティブにできる行為(喉を下げて歌う方法参照)を訓練することで必ず、響くようになります。響きはあくまで結果である事を忘れないでください。
私たちがやるべきことは、あくまでアクティブな事に集中する事なのです。
分かったぜい!響きばっかり考えてないで鍛えるところをまずはしっかり鍛えろって事だな!
そう、その通りです!
おわりに
さて今回は頭声に関する話でした。歌う時、頭声について考えるべきではないと言いましたが、それは決して頭声(鼻腔共鳴)を否定しているわけではないのでそこは誤解しないでください。
まずは首の筋肉を使ってしっかり喉を下ろす。そしてしっかりした呼吸で息を送って声を出すことができれば、響きは後からついてきます。まずは体をしっかり鍛えましょう!
やっと発声の続きの話が来たな。待ってたよ。よろしく頼むよ!