バッハを聴くなら古楽器演奏?古楽器演奏とは何?現代楽器との違いは?

みなさん、こんにちは。今回は前回紹介したバッハを聴くにあたってでてくる疑問の一つである、古楽器演奏についての話です。

バッハの演奏をいざ聴いてみようと思うと、実は同じ曲でも現代楽器で演奏された録音と、古楽器で演奏された録音がある事に気が付くようになると思います。

気に入った曲を見つけて、何か自分でもCDを買ってみたいと思うと、いったいどちらの録音を買えば良いのか迷う事になるわけです。そんなわけで、今回はバッハを聴くなら古楽器と現代楽器のどちらのバージョンを聴けばよいのか、という話をしていきます。

古楽器とは?

まずは古楽器演奏に入る前に、古楽器そのものについて話をしていきましょう。実は現在私たちが目にするオーケストラで使用されている楽器と、バッハの当時使用されていた楽器とでは同じ名前でも形が大分違います。

バッハの演奏をするにあたり、今私たちにとってなじみの深い現代の楽器を使用してもまったく問題はありませんが、バッハの音楽をより良く表現するためには当時の楽器を再現して演奏すべきだ!という運動が1960年頃から起こります。

その先頭となったのが、オランダのチェンバリストであったグルタフ・レオンハルトやオーストリア人でチェロ奏者だったニコラウス・ハルノンクール(日本ではアーノンクールと呼ばれていますが、ドイツ語圏ではハルノンクールと呼ばれています)です。彼らがそれぞれに当時の楽器を再現し、演奏方法を研究しながら、古楽器による演奏の可能性を探り出したのがその始まりとされています。

実際にハルノンクールとレオンハルトは、二人で分担する形でバッハのカンタータを全曲古楽器で録音しました。

古楽器と現代楽器を見比べて見よう

じっさいに古楽器と現代楽器とではどのような違いがあるかはいくつかの楽器の写真を見比べて見ましょう。

画像はWikipediaを参照

こちらはバッハに良く登場するオーボエ・ダモーレという楽器です。上はそれの現在の形であり、現代楽器、それから下側はバッハの時代の楽器という事で古楽器になります。

古楽器の方は、穴をふさぐためのキーと呼ばれるキーと呼ばれる部品が非常に少なく、見た目はリコーダーに近いですね。この二つの楽器、同然ですが音色も結構違います。

上の写真は左が現代のトランペット右が古楽器にあたるナチュラルトランペットになります。現代のトランペットにはピストンと呼ばれるバルブ機能が備わっていますが、ナチュラルトランペットにはまだそのような機能は備わっていません。管に開いた穴を指で押さえる事により音を変えています。

こちらは右側が現在のホルン、そして左側が昔のホルンになります。こちらも古楽器の方にはバルブ機能が付いていません。

バッハの時代に活躍した楽器

古楽器の中には、バッハの時代には活躍しましたが、現在のオーケストラ曲では使われなくなった楽器もいくつかあります。

こちらはチェロに似た楽器ですが、ヴィオラ・ダ・ガンバと呼ばれるものです。こちらはヴァイオリン、ヴィオラ、チェロなどのヴァイオリン属とは形は似ていますが、弦の数や調弦方法、その作りなどが異なっており、それに伴い出てくる音色も異なっています。音量があまり出ない事から、バロック時代以降は徐々に使われなくなりました。

こちらも典型的な古楽器の一つである、リュートと呼ばれるものです。ギターのような楽器ですが、主にバッハの時代は通奏低音と呼ばれる和音を担当するのに大活躍していました。

バッハ博物館にある当時の鍵盤楽器

それから古楽器を代表する鍵盤楽器と言えばチェンバロですね。当時はまだピアノがありませんでしたので、バッハの鍵盤楽曲はたいていがオルガンやチェンバロで演奏されていました。

古楽器に共通する特徴は、現代楽器と比べてまだそれほど進歩していないために、音量が小さく正確な音程がとりづらいとされています。でもそれが古楽器の独特の響きにつながっていますね。

古楽器と現代楽器の聴き比べ① ブランデンブルク協奏曲6番

※カール・リヒターによる現代楽器での演奏

※フライブルガー・バロック・オーケストラによる古楽器の演奏

古楽器演奏の特徴:調律が違う

古楽器演奏の大きな特徴の一つに、調律が違うという事が挙げられます。

私たちが慣れ親しんだ調律には平均律という調律が用いられています。これは1オクターブを均等に12個の音に分けた調律方法です。平均律という調律では半音の幅がどこをとっても一緒になります。

平均律の大きな利点は、どの調で演奏しても歪みが少ないとうい点が挙げられます。しかしその反面平均律では純粋な3度の音を得ることは決してできなくなってしまいました。平均律で調律されたピアノで長三和音は、基本的にいつも少し濁っているのです。私たちはこの調律に慣れてしまっていますが、じつは私たちが聴いているピアノは決して純粋ではないのです。また平均律にした結果、どの半音の幅も同じことから調性による違いもあまりなくなってしまいました

しかしバッハの時代やそれ以前の時代では平均律ではなくて異なる調律方法が用いられていました。その代表例がミーントーンと呼ばれる調律方法です。ミーントーンの最大の利点は、出来るだけ多くの純正な長三和音を取る事ができる(純正な長三度を8つ取る事ができる)と言う事です。これはバロック時代にとっては非常に重要で、曲の最後は純正な3度の和音で終わらなければならないとされていたのです

しかしミーントーンで調律すると、半音の幅がそれぞれ微妙に違うようになってしまいます。その結果、平均律と比べるとド~ド#の幅がすごく狭くなってしまったり逆にミ~ファの半音がものすごく広くなってしまうのです。

純正な3度が沢山演奏できる代わりに、そのしわ寄せを食って、ひどく歪んだ音が出てくるわけです。

バロック時代の作曲家たちは、こうした歪みを意図的に曲の表現として取り入れたと考えられています。例えば、バッハの最高傑作のひとつである「ミサ曲ロ短調」ですが、これをミーントーンで演奏すると曲の中で、ゆがんだ音程が何度も登場してきます。そのため現代楽器と比べてひどく歪んだ響きとなります。しかしバッハは意図的にその和音の歪みを表現として取り入れたというわけです。

古楽器と現代楽器の聴き比べ② ミサ曲ロ短調

※カール・リヒターによる現代楽器での演奏

※ガーディナー指揮による古楽器での演奏

こうした歪みの表現は古楽器でないと味わえない

このような音の歪みを利用した音楽表現というのは、現代楽器では決して味合う事ができません。なので一度はバッハの演奏を古楽器で聴いてみる事をお勧めしたいです。

バッハが聴いていた楽器、そこから奏でられる和音の響きというのは、やはり一度は聴いて欲しいです。

このように古楽器を勧めると、じゃあ現代楽器で録音された演奏は悪いのか?聴くに値しないのか?という疑問が頭をよぎりますね。

決してそんなことはありません。現代楽器でもバッハの良さは十分に表現可能です。むしろ古楽器にはまってしまったあまりに、現代楽器での演奏を否定するようになっては困ったものです。

なんといっても響きよりも大事なのは、音楽の心が表現されているかという所だからです。バッハ当時の響きを追求するあまりに、これを見失っては本末転倒です。

古楽器演奏に潜むリスク?

古楽器演奏の良い点を述べましたので、古楽器演奏に潜むリスクについても一言触れておきましょう。

古楽器演奏というのは、作曲家が生きていた当時どのように響いていたのかという研究から出発しています。これは非常に知的好奇心をそそられるテーマですよね。私だって可能であればタイプスリップしてバッハの演奏を実際に聴いてみたいです。

そのため、古楽器演奏には少なからず、演奏技法や様式ばかりを追求する単なるマニエリスムに陥ってしまうリスクがあります

当時の演奏を再現しようとするあまりに、バッハがその音楽で何を表現しようとしたのか、という部分にまでなかなか光が当たらないのです。バッハの良し悪しの判断材料が、当時の演奏にどれだけ近付いたかという事になってしまいやすいのです。こうしたリスクは演奏者だけでなく、聴衆にもありますので、十分に気を付けたいところです。

大事なのは音楽そのものの心を表現する事です。その心を表現するのに、現代の楽器でできないという事は決してありません(基本的には機能、性能面で優れた現代の楽器の方が表現の幅が広いです)。

古楽器の演奏水準はハルノンクールやレオンハルトの頃と比べると現在では大分洗練された録音が多くあります。しかしその楽器を使って音楽の本当の部分を表現するという部分においては、これからだと思います。

この点では、現代楽器で演奏されたものに良いものが多いです。例えば、バッハが働いていたトーマス教会でオルガニストを務めていた指揮者のカール・リヒターの演奏はバッハの伝統の精神を受け継いでいますから、現代楽器でありながらも、それがものすごく良く音楽に表現されています。

この点ではこれからの古楽器演奏の発展と成長に期待したいですね。

バッハの音楽には楽器はそれほど関係ない

バッハ当時の響きを表現するのに古楽器は欠かせません。なので古楽器には一度は触れてほしいと言いました。

しかしバッハの音楽の心を表現するのに、実は楽器はそれほど重要ではないという良い例があるので紹介しましょう!

バッハが興味があったのは音楽そのものの構造

というのも、バッハが大事にしていたのは、その楽器の可能性を追求する事よりも、むしろ音楽そのものの構造や中身だったからです

これはピアニストのグレン・グールドも自身のドキュメンタリー映画の中で何度も言及していますが、バッハは例えばリストやパガニーニといったピアノやヴァイオリンの技巧を追求するタイプの作曲家とは明らかに異なっています

バッハにとって大事だったのは、音楽そのものなのです。その結果彼は時代の流れに逆らって、なんとポリフォニー音楽(フーガ)ばかりを追求してしまいます。

フ―ガの技法においては楽器指定すらしていない

その結果バッハは“フーガの技法“(私は“フーガの芸術“と訳したいです。)という傑作を作曲するわけですが、そこではバッハは楽器を指定していないんです。つまりこれはバッハにとっては楽器は重要ではなかったという事です。大事なのはどのようにして彼の音楽が成り立っているかという事です。

そのため現在ではこのフーガの技法はピアノやオルガン、弦楽器、管楽器などいろいろな楽器で演奏されて録音されています。

中にはなんとサクソフォン4重奏団が録音した“フーガの技法”まであります。

聴き比べ③ サクソフォン4重奏の演奏も

※弦楽四重奏曲による演奏

※サクソフォーン四重奏による演奏

バッハの時代になかったサクソフォーンでの演奏は邪道でしょうか?バッハの音楽を表す事において、決してそんなことはありません!

おわりに

バッハは実際の響きよりも、音楽の成り立ちそのものに興味を持っていたという話をしましたが、バッハはオルガンやチェンバロの査定に何度も立ち会っており、当然、当時の楽器の性能には興味はあったとされています。

しかし私はバッハというのは当時の楽器の性能よりもはるかに先を見て作曲していたように思います

古楽器でなければ味わう事のできないサウンドというのもありますから、一度は古楽器に触れてほしいですが、それが全てではありません。

大事なのはバッハの音楽の心をいかに表現しているかです。それこそが音楽なのですから!!カール・リヒターやグレン・グールドなど、現代楽器でも歴史に残る録音はたくさんあります。

ぜひいろいろな演奏を聴き比べて自分のお気に入りを見つけてみてください!

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