こんにちは。
当ブログ「音楽に寄せて」においては主にオペラや声楽に関する話題を扱っていますが、新たに【作曲家紹介】コーナーを設置しました。
狙いはこのコーナーを通してできるだけ沢山の人にクラシックの魅力を知ってもらいたい、そしてそれをきっかけに徐々に私の好きな沢山の声楽作品にも興味をもってもらう事です。
このコーナーでは毎回作曲家を一人選び、私の思い出話を混ぜながら、私がおすすめする名曲を作曲家ごとに3から5曲ずつ紹介していきます。
3曲の選曲基準は世間で有名かどうかという事はあんまり関係なく、私が本当に良いと思っているかどうかという完全に個人的なものとなっています。
しかしいずれも思入れの強い曲ばかりですので、その魅力を少しでも伝えられたら良いと思っています。
では第1回目としては音楽の父と呼ばれたヨハン・ゼバスティアン・バッハを取り上げます!!
おすすめの名曲を早く聴きたい方は目次から“おすすめの名曲”をクリックしてください!
もくじ
バッハとの思い出!
私がバッハを最初に取り上げたのは、バッハがとにかく大好きだからです。私はドイツに来て15年以上になりましたが、ドイツに来たきっかけの一つがこのバッハなのです。
私は日本の音大の声楽科に在籍していたのですが、どういうわけかバッハが大好きでした。一番最初の思いでは高校2年生の時にピアノで習ったバッハのピアノ曲「インベンションとシンフォニア」になりますが、そこからどういうわけか、バッハの魅力に取りつかれてしまったのです。
実は日本ではそこまでポピュラーではないかもしれないのですが、バッハは沢山の声楽曲を作曲しています。私は特にこれらの作品の魅力に憑りつかれて、大学時代には、友人たちと一緒にバッハの声楽作品(カンタータ)を演奏する団体を自分で作ってしまったぐらいです。
バッハが好き好きで、大学時代にはバッハの足跡を辿るために、わざわざ主要な観光地を外してバッハにゆかりのあるドイツ東部を旅したりもしました。
大学を卒業してからは縁があって都立高校の音楽教諭を務める事になりました。興味のある生徒達に音楽を教えるのは楽しかったしやりがいもありましたが、バッハが生まれたドイツの地に行ってみたい、そこで勉強をしてみたいという思いがどうしても捨てきれず、意を決して退職してドイツにやって来る事になったわけです。
私の人生にかなり大きな影響を与えたバッハですが、実はバッハがどのような人間だったかというのはあまり知られていません。家族や友人にあてた手紙とかがほとんど残されていないのが原因です。でもそんな中でもいくつか手がかりを見つけましたから早速彼がどんな人物だったのかを見ていきましょう!!
ヨハン・ゼバスティアン・バッハとは?

アイゼナハに生まれ神学校で学ぶ!
ヨハン・ゼバスティアン・バッハは1685年にドイツのアイゼナハという街に生まれました。アイゼナハはチューリンゲン地方と呼ばれる地方にある小さな町なのですが、ここは森が非常に美しい所です。

アイゼナハという街は本当に小さな町で、とくに沢山の見どころがある街ではありませんが、実はアイゼナハの街からそれほど離れていないところにヴァルトブルク城という世界遺産にも指定された観光地としても非常に有名なお城があります。このお城はマルティン・ルターが聖書をドイツ語に訳した場所として有名です。これはルターの宗教改革の発端ともなる出来事なんですが、そのような地域に生まれたバッハは、ある意味当然な流れですが神学校で神学とラテン語を学ぶ教育を受けます。


バッハは生涯の大半を教会音楽に捧げていますが、これはバッハを知る上では結構重要なカギとなります。
バッハは音楽一族の出身
バッハ(Bach)というのは実は日本語で小川を意味します。バッハという姓は日本でいう所の“小川さん”みたいなものなんですが、バッハの名前はその地域では音楽一族として有名なでした。バッハの親戚にはとにかくオルガニストだったり宮廷作曲家だったりと音楽家がたくさん。お父さんもお爺さんも、叔父さん、それから兄弟、いとこ、さらにはバッハの息子たちもほとんどが音楽家です。

バッハの父親ヨハン・アンブロージウスは当時としてはかなりの傑出した音楽家だったようで、楽団ヴァイオリニスト、宮廷トランペット奏者、それから楽団指揮者などを務めています。
そんな環境で育ったバッハが音楽の道に進むのはごく自然な事だったと推測できますが、子供時代のバッハはルターの影響を色濃く受けた土地で育った事もあり、神学校でラテン語や神学の教育を受けています。
非常に多忙で精力的な作曲家
バッハの時代は、音楽家というのは雇われ音楽家であることが一般的でした。その職業としては教会のオルガニストや市の楽団の団員、それから宮廷オルガニストや宮廷楽長などが主なものです。
バッハも教会のオルガニストから仕事をはじめて宮廷オルガニスト、それから宮廷楽長と順調に出世を重ねます。
非常に分かりやすいですが、バッハはオルガニストの時にほとんどのオルガン曲を作曲し、宮廷楽長の時は器楽曲を沢山作曲しました。

そしてバッハは宮廷楽長から、ライプツィヒという街のトーマス教会のカントル(教会の音楽監督兼教育係)兼、ライプツィヒ市の音楽監督に就任します。バッハは宮廷楽長から市の音楽監督というのをキャリア的にはステップダウンだと見ていたようですが、音楽的にはかなりの権限を持ったやりがいのある仕事だったと見て良いと思います。

ライプツィヒに来てからのバッハは毎週行われる礼拝のための教会カンタータ(礼拝の内容に基づいた声楽作品)を勢力的に作曲します。バッハはここに来てからなんと礼拝5年分のカンタータを一気に作曲する事を決意するのです!!
カンタータの長さは礼拝の一部であることから長くても30分程度と決まっていましたので、たいていの曲が20分から30分の長さに収まっていますが、5年分となると約300曲にもなります。
バッハは毎週1曲のペースで作曲して、この5年分を完成させたとされています。しかし残念なことに今ではそのうちの200曲分しか残されていません。
この1週間に1曲のカンタータ作曲ペースがどのぐらい大変かちょっと見てみましょう。作曲するだけだったら週刊漫画の連載に匹敵するような大変さかもしれませんが、実はバッハはこれを実際に演奏もしていました。
つまり作曲してから、その楽譜をそれぞれの楽団員に配り、さらにリハーサルをして礼拝で演奏までしたのです。
これはよほどエネルギーがある人物でなければできませんよね。さらにバッハはこの間、カンタータだけではなくて、弟子や妻の教育のために鍵盤音楽も沢山作曲しているのです。
こうしたところからバッハの精力的な姿が見えてきますよね。
精力的なバッハは子だくさん!
精力的なバッハが頑張ったのは昼間の仕事だけではありません。当時は子供が10人ぐらいいる家庭は決して珍しくはなかったでしょうが、なんとバッハには20人の子供がいるのです!!

このバッハのエネルギーには、世の男性も脱帽するしかないでしょう。
どのぐらいバッハが子育てに関わっていたかはわかりませんが、多くの子供達のエネルギーに決して負ける事がないぐらいの父親であったことを想像するのは決して難しくありませんね。
しかしバッハの身の回りには沢山の死が・・
バッハの身の回りには沢山の子供達がいたわけですが、それが常に楽しい事を意味するわけではありませんでした。
なんとバッハの20人の子供達のうち成人したのは、その半分の10人だけです。医療が発達していない当時、子供が幼くして亡くなる事は決して珍しくはありませんでしたが、それでもバッハは子供を亡くす度に悲しい思いをしていたに違いありません。
バッハが亡くしたのは子供だけではありません。彼は10歳の時に両親を失い、さらに35歳の時には妻のマリア・バルバラを失っているのです。
バッハは人生においてこのような悲しくつらい経験を何度もしているのですが、彼の音楽が私達の心に響くのはそれと決して無関係ではないかもしれません。
バッハの人物像を分る範囲でまとめるとこんな感じになります。
バッハのおすすめ3曲を紹介!!
バッハの最高傑作は何と言っても「マタイ受難曲」や「ヨハネ受難曲」です。「受難曲」というのはキリストが十字架に架けられるまでのストーリーに音楽を付けた作品になりますが、この出来事を目にした人達の様々な感情(痛み、慈悲、後悔、悲しみ等)が音楽で表現されています。
これらの曲が宗教の枠を超えて本当に私たちの心の一番深い所に響いてきます。これは本当に素晴らしい作品です。
ぜひできるだけ多くの人にこの曲を聴いてもらいたいですが、ただこれは最初に聴くにはちょっと長すぎます(2~3時間)。
なので、まずは短めの曲を3曲選んでみましたので、ぜひこちらか聴いてみてください。
ゴールドベルク変奏曲 BWV981
まずおすすめしたいのが、バッハの代表的な鍵盤曲である、ゴールドベルク変奏曲です。この曲は左手の主題が、曲ごとに姿かたちを変えて演奏されていきますが、その変奏曲の数はなんと30曲にもなります。この変化が本当に聴いていてスリリング、エキサイティングで面白い!!

私はこの曲をグレン・グールドの演奏で聴いてからバッハ/グールドの世界にどっぷりとはまってしまいました。
バッハはこの変奏曲の中で、いろいろな技法を用いて音楽の様々な可能性を表現しましたが、この広大なスケールには宇宙的な広がりを感じます。
しかしながら、この曲は変奏曲の主題が非常にシンプルで、1曲1曲も短いのですごく聞きやすいです。

なので皆さんにも最初にゴールドベルク変奏曲を、できればグレングールドの演奏でお勧めします。
※ゴールドベルク変奏曲
ブランデンブルク協奏曲
鍵盤曲を紹介しましたから、次は器楽曲を紹介しましょう!お勧めするのはブランデンブルク協奏曲です。全部で6曲ありますが、どれも素晴らしですよ。
これはバッハが宮廷楽長を務めていた時に書いた作品ですが、バッハが様々な楽器編成のために書いたところが非常に面白いです。なので楽器に興味がある人はぜひとも聴いてほしいです。
私が個人的に好きなのはヴィオラ・ダ・ガンバという楽器が登場する第6番です。ヴィオラ・ダ・ガンバはチェロに似た形をした楽器なのですが、私はこの楽器の響きが大好きです。マタイ受難曲の中にもこの楽器が大活躍する素晴らしい曲が出てきますが、そこで惚れました。

それからホルンが好きな人は1番を、トランペットが好きな人は2番を、フルートやチェンバロが好きな人は5番あたりから聴いてみてください。とにかく当時のいろんな楽器が楽しめますよ。
ブランデンブルク協奏曲にはいろいろな録音がありますが、できればこの曲は古楽器の演奏で聴いて欲しいですね。
私が聴いた中ではジョルディ・サバルが指揮した物がテンポも早すぎなくて良いですが、他にもジョン・エリオット・ガーディナーやニコラウス・ハルノンクールの演奏などもあります。
※ブランデンブルク協奏曲第5番
※ブランデンブルク協奏曲第6番
カンタータ147番 BWV147
鍵盤楽曲と器楽曲を紹介しましたので、お次は声楽曲です。
バッハの魅力を語るならばやっぱり声楽曲は外せません。バッハがその人生の大部分を捧げたジャンルだからです。
バッハが作った曲はトータルで1000を超えますが、その約半分は声楽曲となっています。
今回はその中からおすすめのカンタータを一つ選んでみました。
その名もカンタータ147番です。この曲は私にとっても非常に思い出の深い曲となっています。私がバッハが好きなあまり友人たちとともにバッハの声楽作品を演奏する団体を作ってしまったことにはすでに触れましたが、その記念すべき第1回目の演奏会で演奏したのがこの曲なのです。私が人生で初めて人前で指揮をした曲でもあります。
そんなわけで非常に思い出が深い曲なのですが、このカンタータ(小規模の声楽曲)の中には素晴らしいコラールが「主よ人の望みの喜びよ」が2回登場します。
これはあまりの素晴らしさから世界的に有名な曲となり、単独で取り上げられる事もありますが、このカンタータには冒頭の合唱曲をはじめ、美しいヴァイオリンとソプラノの素晴らしい掛け合いの曲や、トランペットとバスの華やかなアリアなど、聴きごたえのある曲が沢山あります。
※カンタータ―147番
※カンタータ―147番よりバスのアリア
宗教曲というと、なんとなく取っつきにくいと感じる人もいるかもしれませんが、そんな心配は無用です。そこで表現されているのは、人間の心であり感情だからです。人を敬う気持ち、何かを悲しむ気持ち、そうした気持ちには宗教を超えてダイレクトに私達の心に響いてきます。
カンタータ147番は何かに感謝したくなる、そうした気持ちに気付かさせてくれる曲となっています。おすすめの名曲です。
- イタリア協奏曲(鍵盤楽曲)BWV971
- フランス組曲(鍵盤楽曲)BWV812~817
- 無伴奏チェロ組曲(器楽曲)
- 管弦楽組曲(器楽曲)
- カンタータ(声楽曲)140番
バッハの音楽の素晴らしさは?
バッハの音楽のすばらしさを一言で表現するのは難しいです。でもバッハにとっては神というのがすごく重要な存在でした。また子供を亡くすという経験が決して珍しくなかった当時の人々にとって、神を信じる事によって得られる救いというのは非常に重要な意味を持っていたと想像します。
これは私の個人的な意見ではありますが、バッハは音楽を通して神と対話していたと感じる事が多いです。
だからバッハの音楽には俗世間を超越した宇宙的な大きさがり、何よりも尊さがあります。
こういった尊さのような気持ちを感じる事って、私達の今の生活ではあんまりありませんが、結構生きていく上で大事なニュアンスなんじゃないかな、と思います。そしてそれは私達の心を豊かにしてくれるんじゃないかな、と信じています。
そしてそれこそがバッハの魅力だと思っています。
おわりに
さて、今回はバッハについてと、おすすめの曲を3曲紹介しました。
もしかしたら、一回聞いてもそんなに好きじゃない・・という事もあるかもしれませんが、心配しないで何回も繰り返し聴いてみてください!!
クラシック音楽の多くは何回も聴いていくとだんだんに良さが分かってくるものが多いです。噛めば噛むほど味がでるというやつですね。
最初は読書しながらとか洗濯物をたたみながらとかの、ながらリスニングでも良いですからしばらくこの3つを聴き続けて欲しいなあと思います。そして慣れてきたらぜひ一度バッハの音楽をじっくり聴いてみてください。そうするとバッハが表そうとしていた気持ちがだんだんと分かってきますよ。
次回予告
それでは、次回予告です。次回はバッハについてもう少し踏み込んだ話として、古楽器演奏とは何かを取り上げます。実際にバッハのCDを買おうと思うと現代楽器で演奏されたものと、古楽器で演奏された録音で迷う事になると思います。なのでその辺の違いについて話す予定です。
その後ではモーツァルトの人物とおすすめの曲を取り上げる予定でいますから、バッハはとりあえずこの3曲でOKだと思った方は、飛ばしてモーツァルトの方に進んでください!
それでは、次回お会いしましょう。
※出典はニューグローブ音楽大辞典